政府が雇用対策として「従業員の賃上げをすれば、賃上げ分の最大10%を法人税から値引き」というバーゲンセールみたいな税制改正案を検討中らしい。法人税引き下げとデフレ脱却の両立を図る一石二鳥の政策だと考えている人も多いようだが、正直言って筆者には意図がよく分からない。
そもそも、賃上げをすれば企業の利益はその分減るから法人税は下がる。にもかかわらず誰もそれをしないのは、基本的に企業の目的が法人税を下げることではなく、税引き後の利益を増やすことだから。
だから「賃上げ分の10%をお返ししますよ」と言われても、大半の企業からすれば「へー、あそう」で終わる話だろう。安定的に昇給させている成長企業にご褒美をあげる程度の話だ。
ただし、筆者も、企業に賃上げの余地がまったくないというつもりは無くて、むしろ本当はかなり賃上げできると見ている。では、その部分が賃上げではなく内部留保に回ってしまう理由とは何かと言えば、ズバリ「赤字になった時にどうやって人件費をまかなうか」という不安である。
2000年前後の日本企業の労働分配率は危機的水準に達し、あちこちの企業内で労使が額を突き合わせて対応に苦慮していた。あの苦い記憶から、もう日本企業は余裕があってもなかなか思い切った昇給はやらなくなってしまった。正規雇用から雇用調整可能な非正規への置き換え、昇給よりもある程度見直しが可能な一時金を増やすといったトレンドは、みなここから始まったことだ。
というわけで、むしろ企業に賃上げさせるのであれば、内部留保をそれほど増やさなくてもいいような規制緩和こそ重要だろう。どういうことかと言えば、赤字になってもすぐに賃下げや解雇などの雇用調整可能→その時の人件費分を織り込まずに昇給可能という環境整備だ。彼らがやりたがっている非正規から正規雇用への切り替えも、これならある程度は実現するだろう。
飯の量を増やすには、籠城の必要を無くして米蔵の備蓄を減らさせるのが一番というわけだ。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年1月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。