先日、日経新聞夕刊の記事に目が留まりました。厚生労働省と文部科学省が1月18日に発表した、今春卒業予定の大学生の12月1日時点の就職内定状況に関する調査では、内定率が75%。昨年より約3ポイント上昇したそうで、リーマンショック後に7割を切っていた頃からすると、企業の採用意欲が復調する兆しがうかがえます(まだ10万人の学生さんに内定がないという厳しい状況に変わりはありませんが……)。
そうしたデータは今まで参考にしていただけなのですが、コトが「入社後」の人材に関わってくるならば、私の領域なので切迫感が湧いてきます。厳しい就職戦線を乗り越えたのに、入社3年目までに3割程度が辞める傾向が続いています。
そうした中、ふと気づいたのですが、今春入社予定の学生は2年前、就活の環境変化に直面しました。経団連の倫理協定改定により、就活開始が3年生の10月から12月に後ろ倒しになった“一期生”なのです。
当時から、その影響が取りざたされてきましたが、私の中である「仮説」が浮かびます。就活期間が短くなった分、学生が十分に自分の将来像を描いたり、企業研究をしたりする時間が不足したまま内定をもらったのではないか→そうなると、ミスマッチのリスクが例年より大きくなり、企業側も受け入れに向けた綿密な準備が例年よりも必要なのではないか――。
さて、今春卒業予定の学生の意識を探る参考として、「2013年卒 マイナビ学生就職モニター調査」の最終版である「7月の活動状況」を見てみました。
就職情報サイトの採用情報の公開時期が後ろ倒しになったことについて、「影響はなかった」が最多の70%で、「悪い影響はなかった」(23%)「良い影響があった」(6%)を大きく上回り、一見、就活の短期決戦化の影響は少ないように思います。ところが「後輩へのアドバイス」を尋ねた項目では、45%が「自己分析を早く始めた方がいい」(前年40%)、19%が「業界研究を始めた方がいい」(前年13%)が挙げられています。就活が後ろ倒しになった分、自分のキャリアを考え、企業に向き合う時間を十分に取れなかった反省の裏返しではないでしょうか。
採用する企業側も就活短期化に懸念を持っているようです。現行の就活スケジュールになった直後の調査ですが、ひとつの指標になります。楽天リサーチが2011年11月に発表した「人事担当者に聞く、13年新卒採用に関する調査」によると、「倫理憲章」改訂の採用活動への影響について、「あまり影響はない」「影響はない」と答えた企業が過半だったものの、「影響がある」と答えた企業に具体的なことを尋ねると、「学生の企業理解度が下がる」(35%)を挙げた担当者が「企業の広報活動短縮」(57%)に次いで多かったそうです。
今春入社される方々の早期離職リスクを「2013年問題」と銘打つのは仰々しいでしょうか。確かに就活の短期化という環境変化は一過性の現象かもしれませんし、経団連に加盟していない企業は早期に内々定を出していた実態もあるようです。
しかし、「建前」であったとしても就活戦線で短期戦を強いられた学生たちが多いのも事実。入社後にどのような影響をもたらすのか、今後も十分に検証する必要があるのではないでしょうか。
労働政策研究・研修機構の調査(2007年)では、早期離職した若者の7割以上が「新人研修が不十分だった」と感じていたようです。他の調査でも人材育成に悩む経営者が大変多い中、特に中小ベンチャー企業は「教育訓練重視を重視している企業が多いものの、人材の育成が円滑に進んでいない」(商工総合研究所「中小企業における人材活用等の実態調査」)のが実情です。
最近、「社内ニート」という言葉が話題になり、私自身も昨年秋に「R25」や東海ラジオ等、いくつかのメディアから取材を受けましたが、企業人事の最前線を見てきて、若い社員の育成体制が整っていないことによる弊害を実感しています。
私自身は、個々の社員が勤務先の会社のビジョンをしっかり理解しているかに基づいて評価する制度を提案していますが、どんな手法を取るにせよ、企業の経営者、人事担当者は勿論、多くの方々に新卒社員のバックアップ体制を入念に整える必要性が例年以上にある可能性を知っていただきたいのです。
人を育てる仕組みづくりを長年手掛けてきた者としては、「社員だけでなく、企業にもキャリア教育が必要」と最近感じます。私個人は新年度が近付くに当たり、「2013年問題」を踏まえた企画を練るなど、刻々と変化する中小企業の人材事情に向き合う決意です。
私は企業の人材育成のコンサルタントをしています。地方銀行、コンサル会社を経て独立し今年で13年目。250以上の中小企業の社員を育てる仕組みづくりをお手伝いしてきましたが、昨年の暮れから、気掛かりになっていることがあり、アゴラへ投稿しました。読者の皆様には経営者の方々を始め、ビジネスの第一線でご活躍の方も多いでしょう。拙稿が問題提起のきっかけになれば何よりです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
山元 浩二(やまもと こうじ)
日本人事経営研究室株式会社
代表取締役