現在のIOCは、サマランチ前会長が君臨した頃から、3K(金、コネ、権力)が支配する「政治団体」に変身してしまい、クーベルタン男爵のアマチュア精神は影かたちもない。
IOCの組織自体、欧州貴族のサロン的な閉鎖は変わって居らず、サマランチ前会長の意向でその長男を委員に起用するなどコネ社会はますますはびこるばかりだ。
商業化につき物の不正やスキャンダルも絶えず、IOCの金と権力の源である放映権の中央集権振りも悪名高い。
レスリングに比べ、競技人口や人気で圧倒的に劣る近代五種が存続した背景には、近代オリンピックの産みの親であるクーベルタン男爵が自ら考え出した競技であった事と、サラマンチ委員の強い意向があったと米国では報道されている。
古代ギリシャに源流を持つ、伝統の競技だと言うだけに、レスリング団体にも油断があったのであろう。
それにに比べ、危機感を持っていたテコンドウ関係者は、朴次期大統領を動かし、訪韓したレゲIOC会長に朴氏自ら「テコンドウの存続」を訴えたことが功を奏した、と韓国の報道は自慢げに伝えている。
その一方、多くの日本国民が復活に期待をかけているレスリングでありながら、肝心のJOCは「一競技団体の為に動く訳には行かない」等ときれい事を並べていては、全く頼りにならない。
こうなったら、レスリング大国のアメリカとロシアに働きかけるしかない。
地味なスポーツのレスリングだが、米国では歴代大統領の中でも、初代のジョージ・ワシントンから始まり、リンカーン、アイゼンハワーなど11人の大統領がレスリング出身だと言う程、多くの有力者を輩出したスポーツでもある。
前共和党大統領候補であったマッケーン上院議員(海軍兵学校)や次期国防長官に指名されたヘーゲル前上院議員(レスリングの名門ネブラスカ大学)、ラムズフェルド元国防長官(プリンストン大学)等も、レスリング選手であった人物だ(因みに、ロバーツ現最高裁長官も、高校時代に地方大会で優勝した事のあるレスリング選手であった)。
その他にも米国の政治、実業、報道、芸能等の世界で活躍する元レスリング選手は数多く、レスリングから引退してもこの競技に強い愛情を抱き続けているのが特徴だと言う。
大学でも、レスリングの盛んな中西部の諸大学は勿論、アイビーリーグのコーネル大学や名門私立大学のリーハイをはじめ東部の大学でも力を入れている大学は多い。
これ等の大学と姉妹関係にある日本の大学も多い筈だから、競技団体だけでなく、レスリング・ファンの多い大学同志が連携してIOCに圧力をかける事も有効な手段である。
アマチュアではないがWWEの創立者で、大学出のプロレスラーであり、ビリオネアーでもある”Vince” McMahonの財力やメデイアへの影響力を借りる事も悪くない。
IOCの最大の収入源が米国のオリンピック中継権である事からも、米国の有力者を組織してロビー活動を強化すれば、IOCも弱い筈だ。
ソチへのオリンピック誘致でも名を挙げた「武道好き」のプーチン・ロシア大統領を、ロシアのレスリング団体を通じて動員する事も効果があるはずだ。
「金、コネ、権力」を持たない日本の競技団体がいくらもがいても、レスリングのオリンピック復活の道が難しい以上、国際的なロビー運動を起こすしか方法は残されていない。
IOCの商業化や閉鎖性も問題だが、閉鎖性だけはIOC並みで、国際性と商業性に欠けるJOCでは、日本の若い選手が気の毒すぎる。
2013年2月15日
北村 隆司