率直にいって「金融緩和」に前のめりな安倍政権に不安を覚える。ずっと人気取りのための「アドバルーン」と思っていたが、そうではなく、安倍総理の熱い思いと日本経済を乗せた「熱気球」である事が判ったからである。
このままでは、ルクソールの惨事の如く燃えて日本経済と一緒に大地に落ちて来るに違いない。
推測するに、安倍総理の頭の中には下記の様な美しい「お花畑」があるのだと思う。
「金融緩和」⇒「設備投資」⇒「雇用の創出」⇒「賃金の上昇」⇒「個人消費の活性化」⇒「好景気」⇒「設備投資」⇒
ベトナムやミャンマーの指導者が仮にこう考えたとしたら、特に間違っていないのかも知れない。しかしながら、日本の様な成熟した国で可能かといえば、大いに疑問である。
仮に、私が町工場が密集する下町でラーメン屋を開業しているとする。勿論、工場が廃業したり、海外に移転してしまったりで売り上げは右肩下がりである。
地元の信用金庫の貸付係りがやって来て、資金を融通するから店を増築する様奨めたとして話に乗るだろうか? 乗る訳がない。借りた金は金利を付けて返済せねばならないからである。
客が減り、売り上げが右肩下がりなのに、新たに借り入れを起こし店を増築するのは、わざわざ自分から苦労を背負い込む様な愚行である。
回りに工場が戻り、ラーメンを食べに来店してくれる工場労働者が増えない限り増築は出来ないという事である。
一方、町工場はどういった状況であれば設備投資を決断するのであろうか?
「工賃」が上がる事に決まっている。
それでは、気前良く「工賃」を支払ってくれる企業とは一体どの様な製品を世に送り出しているのであろうか?
少なくとも、価格勝負とは無縁の商品である事は確かである。
抽象的であるが、オンリーワンでお洒落で魅力的、他の追随を許さない商品。世界で愛され、余り価格を気にする事なく購入して貰える、そういった商品であると思う。
こういう商品の誕生には、「基礎研究」、「応用研究」、「商品設計」、「マーケティング」といった、関連する各々の分野で高度に創造的な人間が活躍する事になる。
有能且つ創造的な人材が鍵を握る訳である。従って、「教育改革」はマストと思う。
しかしながら、仮に「教育改革」に着手したとしても実際に眼に見えた効果が出るのはずっと先の話である。
従って、即効性を求めるのであれば、国を開き、世界から人材を集めるしかない。
但し、今の様な所得税率、住民税率だと馬鹿馬鹿しくて少なくとも優秀な人材は日本には来ない。最低でもシンガポールレベルまで下げる事は必要と思う。
用事があって、区役所、市役所を訪問しても英語が通じない様では困る。
社員が会社カラーに染まった結果、以心伝心でコミュニケーションを取る事に慣れ過ぎた日本人経営者では外国人スタッフと、そもそも会話が成り立たない。結果、経営者も外から持って来るかという結論になる。
役所が大好きな「行政指導」は外国人経営者には意味不明であるだけでなく、唾棄すべきものと捉えられるはずである。これを強引に進めれば、彼らは出て行ってしまう。
役所のグローバル化も必要という事になる。
「金融緩和」の効果を期待するのであれば、「資金需要」を創造せねばならない。
言い換えれば、資金が効率良く働き富を生む「場」を作り出すという事である。
その一丁目一番地は「構造改革」ではないのか?
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役