日本経済は悪くない - 『デフレ救国論』

池田 信夫

デフレ救国論 ~本当は怖ろしいアベノミクスの正体~
著者:増田悦佐
出版: 徳間書店
(2013-02-23)
★★★☆☆


日銀の正副総裁に黒田・岩田コンビが決まりそうな情勢だが、長期金利は10年ぶりの水準に低下し、マーケットはむしろデフレを予想している。「2年で2%のインフレにならなかったら辞職する」と岩田氏は大見得を切ったが、浜田宏一氏は「インフレにならなくても景気が回復すればいい」と予防線を張り始めている。

本書は、こうしたバカげた議論に正面きって挑戦する。岩田氏も浜田氏も認めたように「日銀が輪転機をぐるぐる回せばインフレになる」という素朴な貨幣数量説は、ゼロ金利では成り立たない。そこで彼らが持ち出すのは「期待」だが、日銀が「人間は空を飛べる」と宣言して、人々がそう期待したら飛べるのか。問題は日銀総裁が何というかではなく、何ができるかである。

「デフレで景気が悪くなる」というのも、因果関係を取り違えたナンセンスな話だ。インフレで景気がよくなるかどうかは、ウォン安とインフレで暴動が起きている韓国をみればわかる。欧米はインフレだが、高い失業率に悩まされている。日本の失業率は4%とアメリカの半分で、2000年代の労働人口あたり成長率は主要国で最高だ。

実はデフレと円高の中で、日本の製造業の国際競争力は上がってきた。名目賃金の引き下げによって単位労働コストは中国の2倍以下になり、付加価値の高い電子部品では高いシェアを占めている。対中国では貿易赤字だが、資本財に限ると大幅な黒字だ。それは日本で設計して中国で組み立てるからだ。円高によって日本企業は海外生産を拡大し、グローバル化は着実に進んでいる。

日本経済についての過剰な悲観論を戒めるのはいいが、「デフレが日本を救う」という話はいただけない。デフレもインフレも、長期的には実体経済に中立だ。また労働生産性が高いのはグローバルな競争のある製造業だけで、規制に守られたサービス業の生産性は低い。大事なのは物価ではなく、非製造業の労働生産性を高めることで、そのためには規制改革とTPPのような対外開放が本筋だろう。