株高って何?

池田 信夫

小学生のみなさんには、株式というのはよくわからないと思いますが、これは会社に出資するお金のことで、株価というのは会社の価値をあらわします。株価は会社がもうかると上がり、損すると下がります。損が大きくなって資本金(株式)を使い果たすと倒産します。


株式はたくさんあるので、多くの銘柄を平均した指数でだいたいの動きを見ます。東京証券取引所(東証)の正式の指数はTOPIXというのですが、昔からある日経平均株価(N225)がいまだによく使われています(図の赤線)。これで見ると、ここ4ヶ月で40%近くも大きく上がっています。この動きは、2月なかばまではユーロ(青線)とほとんど同じ動きをしており、円安が株高の最大の原因だったことがわかります。

2月以降は、ユーロが下がっても日経平均だけが上がり続けています。ユーロの上がり方はドルともほぼ同じなので、今は日本株だけが上がり続けている状況で、これがどこまで続くかはわかりません。日本の会社の利益は上がっていないからです。東証一部の株価収益率(株価/利益)は約25倍です。これは株を25年持ち続けないと株価に相当する利益が得られないということで、欧米の株式市場の2倍ぐらい割高です。

もちろんこれから利益が上がればいいのですが、円安で利益の上がる企業ばかりではありません。たとえば日本が去年、輸入した化石燃料(石油・石炭・LNGなど)は18兆円ですが、ここ数ヶ月のドル高で、輸入額は円に換算すると20%ぐらい上がりました。これだけで3兆円以上、貿易赤字が増えるわけで、電力会社や石油化学などは大変です。


世の中では、アベノミクス(安倍さんの経済政策)で株価が上がったと思っている人が多いようですが、上の図を見てもわかるように、安倍さんが「輪転機ぐるぐる」を言い出した去年11月からもデフレは変わらず、消費者物価指数(食糧・エネルギーを除く東京都物価速報)は、どちらかというと下がっています。要するに株価が上がっているのは、円安と「景気がよくなるんじゃないか」という人々の期待で上がっているだけで、実績は何も出ていないのです。

もちろん株価が上がって、みんなの気分がよくなるのはいいことです。癌の患者に「これは新しくできた特効薬です」といってうどん粉を飲ませると、3割ぐらいの人がよくなります。こういう効果を偽薬(プラシーボ)といいます。「病は気から」というので、偽薬の効果はバカにはなりません。

アベノミクスの偽薬としての効果は今のところ大きいので、副作用がなければいくら飲んでもかまいませんが、あまりたくさん飲むと副作用があります。「日銀が輪転機をぐるぐる回すのは、政府の借金が返せないからだ」と思われると、国債が売れなくなってしまうのです。

でも、うどん粉で癌をなおすことはできないので、いずれ偽薬の効果はなくなります。株式投資は一種のギャンブルですから、負ける人のほうが多いので、よい子は株を買ってはいけません。アベノミクスの本当の成果がわかるのは株式市場ではなく、企業収益が上がって経済が成長し、みなさんが本当に豊かになるかどうかなのです。