打てばどんどん響きそうな“ホリエノミクス”再起動

新田 哲史

「今日午前7:40くらいに仮釈放になりました!」――。
ライブドア事件で服役していた堀江貴文元社長が仮釈放でシャバに出てきた。第一声は93万人のフォロワーを擁するツイッター(RTは9,500超、汗)。お勤め自体は真摯にやっていたようなので制度的には順当だったのかもしれないが、獄中からも派手に情報発信していただけに、司法当局が目障りに思って満期近くまで引っ張るかと予想もした。それだけに一報を目にした時は正直驚いた。アベノミクスに拍車をかけようと若手起業家を元気づけるために、政府首脳の思惑が働いてカリシャクを認めたのかと穿った見方をしたくらいだ。


●体形は細く、言動は丸く
ま、私はホリエモンのファンでもアンチでもない。“功罪”の論評は全くのフラット。ただ、ある種の天才なので興味は尽きない。自分がまだ現役の記者なら取材したい人物ではある。収監が決まった頃、ジャーナリストの渡邉正裕氏がツイッターで「一種の留学。革命家は刑務所でキャリアアップする」と辛口の論評をして同意した記憶があるが、球界再編、ニッポン放送株買収劇に象徴されるように、社会の既成概念に勝負を挑んで問題提起した点は評価している。一方、特捜部に付け入る隙を与え、多くの株主を巻き込んでしまった結果責任は問われても仕方がない。事件の際には関係者一人の尊い人命が失われた経緯もある。

さて、久々に挑発的な堀江節が聞けるのかと仕事の傍ら、記者会見の動画をライブで見た(まとめはこちら)。「世の中から反発を受けると、こうなるんだと学習しました」――。あらら?かつての威勢の良さはどうしちゃったの?謙虚なトーンに終始するその姿から、体型は細くなったけど、なんか丸くなっちゃったな、とまたまた意外な驚きだ。丁寧にお辞儀もしているし、司会者も時間ぎりぎりまで記者の質問を受け付けている。ちょっと古いけど、企業の危機管理対応の草分け本「マスコミ対応緊急マニュアル」に書いてある通りの動きっぽくて(苦笑)、弁護士さんかPRの専門家が助言したのかと感じた程だ。まぁ無理もあるまい。まだカリシャクの身なのだ。刑期を完全に終えるまで、安全運転を心掛けているように見えた。ただ、穏やかな目付きで社会貢献とか受刑者の再犯防止の話を真摯に語るあたりは、やっぱり変わったのかな。この世の“オンザエッヂ”で過ごした体験が人生観に大きな変化をもたらしたのは間違いない。

●さ、どんどんインタビューしてくださいね
この1年9か月の獄中生活については本人が早速自著の宣伝をしているが、やはり様々なインタビュアーが彼の培った「コンテンツ」をどんどん引き出し、料理し、あるいは時にハレーションを起こして社会に様々な論点を発していただきたい。

田原さんは長野まで面会に行かれていたようだし、アベノミクスをテーマにしている明日の朝生にサプライズゲストで呼んだら徹夜で見るけどなぁ(ちなみにアゴラから池田先生や小幡先生が出られるそうです)。

特に興味があるのは、収監当時から2年も経たないうちに社会動向が大きく変化した点を、彼がどう論評するのか。政権の再交代があっただけではない。出所早々に「遅ればせながらLINEデビュー」と呟いていたが、スマホの普及でIT環境は一変。各企業のO2O戦略、ビッグデータの潮流をどう見ているのか。このBLOGOSでの池田先生との対談記事は、デフレど真ん中の頃で、堀江氏は「正直日本が疲弊しようが、知った事っちゃないんですよ」と突き放し気味だった。アベノミクスで沸き立つ昨今の経済情勢をどう見ているのか、池田先生と再対談すれば深堀りされるはず。津田大介氏がネット選挙を話題に取材すれば、ネット環境の無い獄中体験を織り交ぜた新たな知見も聞けるだろうし、記者会見で意欲を見せた新たなニュースメディアの構想ももっと具体化してくるに違いない。獄中では新聞をむさぼり読んでいたそうなので、事件当事者の経験も加味した発言は注目だ。あ、いっそのこと例のホストみたいな情報商材の人と“新旧ヒルズ族”ガチンコ対談バトルも面白いな。「君は僕の二の舞になりかけている」と諭したりしてね。わははは。

奇しくも六本木ヒルズ開業10周年記念に間に合った(苦笑)今回の仮釈放。アベノミクスのブースター最終形のシンボリックな位置づけになるのか。それとも社会起業家的なテイストを含んだ変身をしたのか――。今回は問い掛けだらけの拙文になって恐縮ですが、「世相ウォッチャー」としては、少なくても、起業を志望する高校生がわずか6%しかいないような閉塞感に楔を打ち込む程度の社会的意義づけはあってほしいと注目しています。

新田 哲史
Q branch
メディアストラテジスト/コラムニスト
個人ブログ