河野太郎氏が、関西電力と九州電力の料金値上げを批判しているが、私は別の観点から疑義を呈したい。今回、経産省の要請によって値上げ幅は企業用では関電17.3%、九電11.9%に圧縮されたが、この前提には現実にありえない条件が含まれている。
関電の資料には「原子力利用率は、高浜3,4号機の平成25年7月以降の再稼働を織り込んだ数値です」と書かれ、九電の資料には、「原子力利用率は、平成25年7月以降、川内・玄海原子力発電所が順次再稼働するものとし、55%と織り込みました」と書かれている。
高浜3・4号と川内・玄海は再稼働できるのだろうか。これについて関電の八木社長は、「原子力規制委員会が7月に導入する新安全基準の影響が見通せないので7月の再稼働はむずかしい」との見通しを表明した。今のところ新安全基準を満たす原発は全国に1基もなく、特に免震重要棟やフィルター付ベントなどの工事には2年ぐらいかかる。規制委の田中委員長は「再稼働には3年以上かかるだろう」という見通しを出している。
もともと新安全基準と再稼働は別問題である。電気料金審査専門委員会の安念委員長がのべたように「原発を再稼働させるのは適法。国が再稼働してはいけないと言う方が違法だ。規制委が審査して再稼働を認める権限は法令のどこにもない」。
経産省が原発の再稼働を条件にして値上げ幅の圧縮を求めたということは、この夏にも再稼働を認めると示唆したのかと思ったが、関係者に聞くとそういう話はないらしい。というか規制委は環境省の外局なので、経産省には手が出せない。つまり再稼働の可能性はないが、あることにしないと値上げ幅が3割以上になって反発をまねくので、電力会社が再稼働できると嘘をつくことを条件にして経産省が値上げを認めたのだ。
東電の状況は、もっと深刻だ。総合特別事業計画では「柏崎刈羽原発は2013年度中に4基が稼働」すると想定しているが、新潟県の泉田知事は記者会見で政府の瓦礫処理をこう批判している。
セシウムに関して言うと、心臓や血管にたまるわけです。日本の平均寿命は今縮んだようです。心疾患や脳血管障害等も含め、ガンでなくても健康被害を及ぼす可能性が晩発性であってもあるということです。放射性物質の管理を3月11日以前よりも緩めることにより健康被害を受ける人が出ることになれば傷害です。それによって亡くなる方が出れば傷害致死と言いたいところですが、わかっていてやったら殺人に近いのではないでしょうか。
瓦礫の受け入れを「犯罪」とか「殺人」とか呼んでいる知事のもとで柏崎原発が再稼働される見通しは、彼の任期中(~2016年)はないだろう。ありえない再稼働を前提にした値上げ幅の圧縮は、電力会社の資本を浸食して経営破綻をもたらし、最後は国民負担になる。