大恐慌論 [単行本]
著者:ベン・S・バーナンキ
出版: 日本経済新聞出版社
★★★★☆
一般向けの本では、いまだに「有効需要の不足」が大恐慌の原因だったというケインズ的な説明が一般的だが、そういう価格の硬直性だけで10年以上にわたる大恐慌を説明するのは無理がある。この通説に膨大な実証データを使って挑戦し、流動性の不足が原因だったことを明らかにしたのが、Friedman-Schwartzの大著だ。その抄訳もあるが、一般読者にはおすすめできない。
本書(原著は2004年)は、現FRB議長がFriedman-Schwartzを踏まえて、さらに詳細なデータの分析と国際比較を行なったものだ。ここで著者が指摘しているのは、金融機関の破綻が取り付け騒ぎを誘発し、それがさらに破綻を拡大するというDiamond-Dybvigの複数均衡だ。FRBがこれを放置した結果、信用収縮が起きて決済機能が寸断されたことが、名目GDPが半減して失業率が25%になるという破局をもたらした。
2008年の金融危機で破綻したのは商業銀行ではなく投資銀行なので大恐慌とは違うが、CDSには一種の決済機能があり、この市場が崩壊したことが信用収縮をまねいた。Woodfordなどが、金融仲介機能を明示的に考慮した金融理論を構築しようとしている。
本書が指摘したのは、金本位制がデフレを海外に伝播させたという国際的要因だ。これは日本でも、1930年に浜口内閣が行なった金解禁でよく知られている。要するに大恐慌は、金本位制の欠陥とFRBの誤った金融政策が、景気循環を人為的に拡大して世界に波及させたものだ。変動相場制では金融政策の影響は為替レートの変動で遮断されるはずだが、2008年には為替投機によって国際的な連鎖反応が起こった。
本書の説明には批判もあり、30年代にも問題はマネーサプライだけではなく、自然利子率がマイナスになるヴィクセル的不均衡が発生していたのではないか、とクルーグマンは指摘している。この場合はFRBがいくら流動性を供給しても状況は改善しないわけで、これが大恐慌の長期化した原因かもしれない。この点では現在の日本の状況を考える参考にもなるが、本書も一般向きではない。