(GEPR編集部より)電力の需給計画を企業でつくった専門家から寄稿をいただいた。それを掲載する。
1・はじめに
福島第一原発の事故は我国だけでなく世界を震撼させた。電力会社に在籍したものとして、この事故の意味を重く受け止めている。
原子力には多くの課題もあり、事故の反省もある。しかし最初からゼロ原発、縮原発ありきは考えなおす必要がある。どのような未来を選択するにしても、基本的な検証が要る。筆者は電力で火力発電電源計画を担当した経歴を持つ。焦点の一つである原発と太陽光、風力発電の割合について考察した。
2・我国のエネルギー・環境に対する基本的視点
自然エネルギーの割合を高めようという気運が高まっている。しかし、この種のエネルギーは電力供給面から見ると、量、質で疑問が多い。ここでいう質とは、「経済性」「バックアップ電力が必要であること」「瞬間的電圧な周波数変化に適応しづらいこと」「停電への対応」などの問題だ。
特に太陽光、風力は他の自然エネルギーに比べ、気象、天候により出力が不規則、時に長時間停止もある。分散して多量に入れれば緩和されるが、やはり質の問題は残るだろう。
日本のエネルギーの状況を考えてみる。一次エネルギー(エネルギーに転換するエネルギー)の自給率は4%(09年)電力量ベースでも原子力を準国産とみなしても31%に過ぎない(08年)。現在は原子力がほとんど稼動せず、長期になりそうなので自給率それはさらに低下している。主要国に比べ圧倒的に少ない。
日本では原発を止めたことによる火力発電のLNGの輸入の価格増加分は、12年度は約3兆円となり、貿易赤字の大きな要素になった。この費用の大部分は海外に行き、国内には残らない。まして円安が続けば高い電力のコストは定着する。化石燃料価格は中長期的には上昇するだろうし、枯渇もありえる。現在は日本の電力では9割以上が火力に依存し、その大半は化石燃料を燃料にしている。このままでは日本経済の先行き、産業の国際競争力にもひびく。
よく自然エネルギーの割合が大きいドイツと比較されている。同国は石炭が豊富にあり、自給率は1次エネルギーで29%もある。EU相互の電力融通も活発であり、日本と事情が違う。
エネルギーの未来を考えるためには、今後100年にわたり大まかな戦略を立てるべきだ。しかし、そうした考えの材料が少ない。そのために太陽光、風力発電と原発との組み合わせによる経済性などを考慮し、簡単な試算を試みた。表を次に示す。
3・電力パターンの検証
3・1試算結果
以下の3パターンを検証してみた。2012年比でLNG火力として発電原価に占める燃料費が2割上昇した場合の年間コスト増の結論である。
ここ数年間我国の総電力需要は安定推移しており、約1兆kWhである。それに対する各電源比率を以下%表示した。
ケース1:原子力小5%、太陽光の割合大6%⇒1・55兆円増
ケース2:原子力小5%、太陽光の割合大6%、風力の割合大6%⇒1・44兆円増
ケース3:原子力普通30%、太陽光の割合2%、風力の割合2%⇒1・15兆円増
(いずれの場合も、火力燃料費の上昇予想分、約3兆円分はのぞいた)
詳細は以下の通りである。
以下は主要な仮定である。
経産省総合エネルギー調査会コスト等検証委員会資料から試算した。
ここでいう年間総経費とは、発電原価の値と発電量の積で燃料費、補修費、管理費などの経費を含む。
現在の稼働率では、日本では地球上の中緯度の国の宿命で太陽光発電の稼働率は12%程度にすぎない。風力も風況に左右され稼働率25%程度である。将来太陽光素子が改善されてもあまり変わらないだろう。
電力需要をまかなうために、火力発電でバックアップをすると仮定する。6%稼働率は1兆kWhの600億kWhを分担する意味、稼働率が悪いので600億kWh÷【8760×0・12】→5700万kWという大きな太陽光発電設備になる。風力も25%程度だ。中間負荷帯の出力不足分と周波数などの調整は火力発電(ここではLNGコンバインド)でカバーすることとしてある。
各3パターンにいずれも火力発電量がふくまれる。これをかりに全部LNG火力とすると、そのLNG火力の約8割は燃料価格による3兆円の増加というのは、現在から燃料が約2割アップしたと仮定した。過去20年の上昇幅がその程度であるためだ。
3・2評価結果
表に示された3ケースの試算結果から次の事がよみとれる。
原発が少なく太陽光、風力発電が増えると平均発電原価増加により年間費用は増加する。一般的に自然エネルギーの発電コストが増え、さらにバックアップのための火力発電が増えるためである。
原発が多くなり、太陽光、風力発電が減ると逆に年間費用は減少する。
CO2発生量はカバーする火力燃料の量に逆比例し太陽光6%のケース、太陽光と風力を加
えた12%のケース、次で原発30%のケースの順にCO2は減少する。国全体では年間約12億トンであるから、電力の占める割合はかなり高い。
4・総括
わが国の昼間の時間帯では1・3~1・8億kW位のkW需要であるから、太陽光6%では、晴れの日で、発電量は5700万kWと需要の約3分の1となる。さらに、その膨大な電力供給量を、維持する場合には、需給調整のための火力を準備しなければならない。揚水発電では限定的である。風力発電でも同じ事情がある。
多くの人が、太陽光、風力は環境によいと思っている。それらが大量に投入されればCO2の削減で環境には寄与する。しかし火力発電がバックアップとして必要となって、化石燃料も使うことになりシステム全体としてはCO2がでる。原子力の場合はほとんどどこういったことにはならない。
太陽光、風力の稼働率の悪さは致命的な問題だ。電力システムを維持する観点から見た場合に、自然エネルギー、特に太陽光、風力発電のように出力の規則性の低いものは原子力の代替にはならない。そして増やすほど、今の発電量を維持するとすれば、バックアップの電源が必要になる。蓄電池の安くてよいものができるならその時にやればよいのだ。
またケース1(太陽光大)と、ケース3(原発大)を比べると、年経費の差は年0・4兆円にもなる。10年で4兆円にもなる。
この状況は、今後数十年変わらない。こうしたことを考えると、原発をなくすという選択肢はとても危ういと思う。もちろん、福島の事故の被災者の方々の苦難を考え、そして事故への反省は必要である。しかし原子力をゼロにして再生可能エネルギーを増やすという選択肢は、これまで述べたような負担がある。コストが増え、バックアップのための火力発電が必要になるのだ。
電力の未来を考える際に、少なくとも、総発電量の3割ぐらいの原子力を確保するのが妥当ではないだろうか。