その証明は簡単だ。3月のCPIは前年比-0.5%とまだデフレだが、世の中は「アベノミクス景気」にわいており、飯田氏もその成果を強調している。つまり日本経済は、デフレを脱却してないのに好況になりつつあるのだ。その原因はインフレではなく株高である。まさか飯田氏も本田悦朗氏のように株価と物価を混同しているわけではあるまい。
本書も指摘するように、必要なのはインフレではなく成長であり、そのために大事なのは需要増である。次の図のように名目賃金(平均給与)は一貫して下がっており、これが需要不足をまねいてデフレをもたらしている。つまり日本のデフレは実物的現象であり、金融政策では是正できないのだ。
ところがリフレ派が物価と資産価格を混同しているため、資産インフレと需要増が取り違えられている。飯田氏は「資産効果で景気がよくなる」というが、それは株式や土地を保有している高所得者だけだ。インフレになると賃金も預金も目減りするので、サラリーマンとの所得格差は拡大し、この逆資産効果で需要は下がる。これは80年代にも社会問題になったので、国会でも野党がこの点を攻撃するだろう。
著者は外国為替の専門家として今回の円安・株高を分析して、最大の原因は「リスクオン」への回帰や貿易赤字などの国際的な要因で、そこに安倍氏の口先介入が加わった「まぐれ当たり」だという。この相場は「期待」だけで動いている脆弱なもので、またユーロが大きく崩れると逆回転するリスクもある。すでに株価が為替のトレンドと大きく乖離しており、実体経済を反映しないバブル的な景気は、株が暴落すると一挙にしぼむだろう。
飯田氏や本田氏を除く多くの専門家がいうように、実体経済を改善しないで「インフレ期待」で日本経済が回復するなどという「うまい話」はない。本書もいうように、国民の不安の原因になっている財政危機や破綻した社会保障を改革し、規制改革や税制改革など、政府がやるべきことをやるしかないのだ。