待機児童問題に民力を使え ~ 質を落とさずに供給を増やす4つの解決策 --- 伊藤 悠

アゴラ

なぜ待機児童問題が解決に向かわないのか 伊藤 悠

保育所入所を待つ待機児童の解消が、都市部でなかなか進みません。読者の皆さまの中にも、切実な問題として悩む方が多いのではないでしょうか。


私は東京都議会議員として、そして4歳の長女と2歳の息子の子供の父親として、待機児童問題の解決に向けた取り組みをしています。有権者の皆さまから学んだことを参考に、この小論で問題解決の道筋を考えたいと思います。

保育園の一室(イメージ)
 
まず結論を述べると、私は、待機児童問題は解決できると考えています。保育施設を増やすことがその方法です。しかし、それは単に「保育所を建設する」という取り組みだけではなく、官民協力の仕組みづくりなど、さまざまな手段を同時に進めることで、実現できると言えます。

そして住民の皆さまが声を上げることで、行政も政治家も動くと確信しています。問題解決のために、政治にぜひ、知恵と御意見をお寄せいただき、共に問題に取り組んでいただくことを、この場を借りてお願いしたいと思います。

子育て夫婦を苦しめる心身と経費の負担

私は現在36歳で、夫婦共働きです。私の両親も共働きでしたので、私自身、保育施設で育った経験があります。ですから、せめて、子どもが0歳から1歳の間は、親のもとで育つことが望ましいと思いますし、また、親にとっても、0歳児の赤ちゃんと過ごす時間はかけがえのないものであると実感しました。しかし、4歳と2歳になったことをきっかけに、我が家の子どもたちを認可保育園に預けようとしたのですが、0歳児でないと保育施設に入りづらいという矛盾に直面しました。

ここでいう「認可保育所」とは児童福祉法に基づき、都道府県知事が認可した施設のことで、保育士の数や設置要件が、子供の安全を守るために、厳格に定められているため、人気がある上に、公的な補助が手厚く、利用料が安いという利点があります。

私たち夫婦も目黒区内で認可保育園に希望を出しましたが、どこも定員に余裕がなく、落選し続けました。そこで子ども2人を無認可保育所に預けたのですが、保育料は2人で月12万円にもなります。少子化対策の必要性が日頃アナウンスされているにもかかわらず、保育園不足による親の負担は大きく、見つからないことによる時間の空費、そして精神的なストレスは想像以上でした。

これは私たち夫婦の問題だけではありません。幼い子供を持つ知人・友人、そして住民の皆さまが同じように保育所探しと金銭の負担で、疲れきっています。こんなに豊かな国であるはずの日本で、子育ての支援はとても貧弱なのは、政治の責任が極めて大きいと自戒を込めて申し上げます。

保育所の増設に5億円、巨額の費用負担が問題

保育園が増えなかった本当の理由は、大きく三つあると思います。一つは、政策をリードする政治家自体が、地元の名士であることが多く、大家族に恵まれ、保育を必要としないケースが多かったからだと考えられます。もう一つは、政治家を突き動かすエネルギーが、道路やダムといった業界圧力に比べて、これまでは大きくなかったことということです。議員になって実感しましたが、この国の予算配分は、業界の力=政治に流れる資金力に比例しているといっても過言ではありません。ダムや道路に予算が付きやすく、保育のように業界や個人の力が弱いところには、予算が後回しになっているのが実態です。

そして最後の理由は、自治体の財政的な問題です。例えば、東京都内で認可保育園を一つつくるのに、建設費は約5億円必要です。土地代は別にかかります。さらに保育士の人件費を含めて計算すると、0歳児の赤ちゃんを一人預かると、市や区の負担は月に40万円にもなるため、財政悪化を懸念して保育園の増設を敬遠してきたのです。

そこで一つの解決策は民設民営の認可園を増やしていくことです。従来の公設公営の認可園の場合に比べて、コストを軽減できるメリットに加え、自由な民間の裁量によって高度な幼児教育を導入できるなどのメリットがあります。もちろん人件費が抑制されることへの懸念は拭えません。民営化において一番留意しなければいけないのは、コスト削減とともに生じる保育の質の低下です。しかし公設公営による認可園の増設が困難な今、民設民営の認可園の質をどのように保っていくのかを真剣に議論する時期に来ています。

それでも認可園の開所基準は厳しく、都市部では適した土地は見つからないといった問題もあります。そこで東京都は、「認証保育所」という新たな基準の保育所づくりに取り組んでいます。国の基準が厳格であるため、それを緩やかにした民間の施設で、多くの利用者に評価を受けています。しかし都の取り組みである認証保育園に対し、国は制度的に認めていないために予算をつけていません。そのため、認可保育園に比べて認証保育園は保育料が高くなり、認可保育園に入れた世帯と入れなかった世帯の不公平感が広がっています。

国は規制緩和と民活へ政策転換を

それでも、私はさまざまな政策を同時に実行することで、待機児童問題は解決できると考えています。

私には国の政策面で2つ、そして自治体の政策面で2つの提案があります。

国が行うべき政策は、第一に保育所の増設支援です。財政負担への懸念はあるもののこの優先順位を上げるべきでしょう。民主党はコンクリートから人へと訴え、3年余りの政権時代に国土交通省の予算を32%カットし、その分、厚生労働省や文部科学省の予算を大幅に増やしてきました。この流れを切ってはいけません。

第二に、国は認証保育制度など、地域の実情に合った保育施設を認め、積極的に自治体を支援することです。地方と大都市とを画一的に定めた認可保育園の設置基準は大幅に見直されるべきだと思います。

自治体は現場に根ざした工夫ができる

現場に近い自治体レベルでは、私は以下の2つの政策を実行するべきであると考えます。

解決策その1:保育のための公有地再利用

先ほど保育所の建設費の高さが保育所の増設を妨げる一因になっている事情を紹介しました。各自治体が、保有する公有地、建物を保育向けに提供する取り組みを拡充させれば、その建設コストの節約は可能です。各自治体は財政難から、保有資産の整理を進めています。ただしそれでも、駅前一等地が未開発になっている例や、交通の利便のよいところに公有の空き地があるなどの例はいくつもあります。

また東京など都市部の自治体では、少子化の影響でできた公立小中学校の空き教室の活用が話題になっています。一部の区では空き教室の保育への転用の取り組みが始まっています。こうした取り組みを広げることが必要でしょう。

私たちは行政と協力しながら、そうした場所の洗い出しに取り組んでいます。保育ニーズの情報を精査すれば、土地の適切な利用のヒントも出てくるでしょう。

工夫次第では、質を下げずに、無駄を減らす形で、保育の拡充は可能だと言えます。

解決策の2:小規模保育の拡充

保育ニーズに対して絶対数が足りません。そのために自治体レベルでも国レベルでも、認可保育園だけではない多様な施設を増やすことが必要です。現在、猪瀬直樹都知事による提案に「スマホ」構想があります。これは「スマート保育」の略称です。6人から19人の子どもを預かる小規模施設で、開所基準を緩和し、1500万円の開設資金を都が民間に提供する構想になっています。

この構想は5月時点で基準づくりの真っ最中ですが、私は、保育の質を落とさずに、多様な保育施設を増やす仕組みづくりのため、都に働きかけていきたいと思います。

社会の「町医者」地方議員と市民の力で役所を動かす

私は政治家の仕事とは、言わば「町医者」のように、問題を抱える住民の皆さんを往診して回り、行政に働きかけながら問題をよい方向に変えることであると考えています。特に地方議員は、有権者の皆さまとの近さを活かして懸命に働くべきです。

東京の杉並区、世田谷区、埼玉県のさいたま市などでは、待機児童問題で困ったお母さん方が、行政不服審査法に基づき異議を訴え、さらに抗議活動を行いました。大変悲しい出来事であり、一地方議員として困っている方がたくさんいることを大変申し訳なく思います。しかし、これらのお母さん方が声を上げたことで、メディアが関心を持ち、問題は全国に知れ渡り、行政も重い腰を上げつつあります。

私は待機児童問題でのタウンミーティングを行っています。お子さまの将来を心配するご両親が数十人も集まり、政治家である私に意見を述べ、政策を知ろうとなさっています。

公務員の皆さんは私たち議員の発言を聞いてくれます。しかし、どの程度真剣に聞くのかは、議員の背後にいる有権者の皆さまの熱意と数の力次第です。声を上げる人が多くなればなるほど、議員の提案する政策は力を持ちます。そして政治家は選挙で有権者から、働きがふさわしくないと判断されれば職を辞さなければなりませんから、紛れもなく主権は住民の皆さまにあるのです。

待機児童問題では、私は保護者の皆さまの声を行政に届け、議会から問題解決に取り組みたいと思います。多くの皆さまがまず問題を知り、声を上げることから、解決の第一歩が始まります。ぜひ、多くの方のご協力をお願いしたいと思います。

子供たち、そしてその親御さんのよりよい生活と未来のために。

伊藤悠(いとうゆう)
都議会議員(目黒区選出・民主党・2期)。早稲田大学第一文学部卒。目黒区議を経て、2回当選。現在は都議会経済港湾委員長。
ホームページ