ブラック企業って何?

池田 信夫

このごろ「ブラック企業」という言葉がよく使われるようになりました。別に定義があるわけではないのですが、「従業員を酷使して使い捨てにする企業」という意味のようです。その代表として、小学生のみなさんでも知っているユニクロ(ファーストリテイリング)がよく槍玉に上げられます。特に最近、話題になったのが、「年収100万円も仕方ない」という朝日新聞のインタビューです。

しかしこの記事の内容は、ユニクロが世界同一賃金を導入して新興国も含めた給与体系にするという話で、

社員は、どこの国で働こうが同じ収益を上げていれば同じ賃金でというのが基本的な考え方だ。海外に出店するようになって以来、ずっと考えていた。[・・・]将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない。

という話の「年収100万円」の部分だけを見出しにしたもので、あまりフェアなやり方とはいえません。これは今年から導入されたファーストリテイリングの新賃金制度で、欧米や中国など13ヶ国・地域で店長候補として採用した社員すべてと役員を「グローバル総合職」とし、職務内容で19段階に分けた「グレード」ごとに賃金を決め、店長以上は「実質同一賃金」にするというものです。

しかしすべての社員を同一賃金にするわけではなく、対象は世界の社員2万人の1/4だけです。「年収100万円」というのは新興国では高いほうですが、日本ではそんな給料では社員が集まらないので、柳井さんの話はあえて単純化したものでしょう。

ユニクロに入社した社員のうち、3年以内に辞める人が50%を超えるなど、労働条件がきびしいことは事実でしょう。しかしiPhoneなどをつくっている中国のフォックスコンでは暴動が起き、韓国のサムスン電子も低賃金と苛酷な労働条件で知られています。他方で「働きやすい会社」のトップにいつも選ばれるパナソニックは、2年連続で7500億円を超える赤字を計上する見通しです。

資本主義というのは戦争なのです。いくら働きやすくても、会社がつぶれたら労働者は暮らしていけません。そしてユニクロのシャツのように世界のどこでもつくれるものの値段は、世界中で同じに近づいていきます。これは水が高いところから低いところに流れるのと同じで、世界中で水位が同じになるまで、止まることはありません。

シャツの値段が同じになると、それをつくる人の給料も同じになります。シャツをつくる人の時給が日本で800円、中国で100円だったら、中国でつくって輸入することになるでしょう。これは中国の労働者を日本に輸入したのと同じで、結果的に「世界同一賃金」に近づいていきます。これを経済学では、ちょっとむずかしい言葉で要素価格均等化といいます。

このように物価上昇率が下がる傾向は、図のように新興国との競争が激しくなった1990年代から世界全体で起こっています。ただ労働組合が賃金の引き下げを許さないアメリカに比べて、日本は正社員を減らしてパートやアルバイトを増やして賃下げしてきたため、それがデフレという現象になっているだけです。

こういうグローバル競争は、今後も強まることはあっても弱まることはないでしょう。もちろん労働条件を改善することは大事ですが、会社がつぶれたら元も子もありません。そういう時代に生き残れるのは「グローバル人材」とかいう変な人材ではなく、代わりのきかない能力のある人です。よい子は勉強でもスポーツでも芸術でも、他人にできないことのできる人になりましょう。


しかしこの記事の内容は、ユニクロが世界同一賃金を導入して新興国も含めた給与体系にするという話で、

社員は、どこの国で働こうが同じ収益を上げていれば同じ賃金でというのが基本的な考え方だ。海外に出店するようになって以来、ずっと考えていた。[・・・]将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない。

という話の「年収100万円」の部分だけを見出しにしたもので、あまりフェアなやり方とはいえません。これは今年から導入されたファーストリテイリングの新賃金制度で、欧米や中国など13ヶ国・地域で店長候補として採用した社員すべてと役員を「グローバル総合職」とし、職務内容で19段階に分けた「グレード」ごとに賃金を決め、店長以上は「実質同一賃金」にするというものです。

しかしすべての社員を同一賃金にするわけではなく、対象は世界の社員2万人の1/4だけです。「年収100万円」というのは新興国では高いほうですが、日本ではそんな給料では社員が集まらないので、柳井さんの話はあえて単純化したものでしょう。

ユニクロに入社した社員のうち、3年以内に辞める人が50%を超えるなど、労働条件がきびしいことは事実でしょう。しかしiPhoneなどをつくっている中国のフォックスコンでは暴動が起き、韓国のサムスン電子も低賃金と苛酷な労働条件で知られています。他方で「働きやすい会社」のトップにいつも選ばれるパナソニックは、2年連続で7500億円を超える赤字を計上する見通しです。

資本主義というのは戦争なのです。いくら働きやすくても、会社がつぶれたら労働者は暮らしていけません。そしてユニクロのシャツのように世界のどこでもつくれるものの値段は、世界中で同じに近づいていきます。これは水が高いところから低いところに流れるのと同じで、世界中で水位が同じになるまで、止まることはありません。

シャツの値段が同じになると、それをつくる人の給料も同じになります。シャツをつくる人の時給が日本で800円、中国で100円だったら、中国でつくって輸入することになるでしょう。これは中国の労働者を日本に輸入したのと同じで、結果的に「世界同一賃金」に近づいていきます。これを経済学では、ちょっとむずかしい言葉で要素価格均等化といいます。

このように物価上昇率が下がる傾向は、図のように新興国との競争が激しくなった1990年代から世界全体で起こっています。ただ労働組合が賃金の引き下げを許さないアメリカに比べて、日本は正社員を減らしてパートやアルバイトを増やして賃下げしてきたため、それがデフレという現象になっているだけです。

こういうグローバル競争は、今後も強まることはあっても弱まることはないでしょう。もちろん労働条件を改善することは大事ですが、会社がつぶれたら元も子もありません。そういう時代に生き残れるのは「グローバル人材」とかいう変な人材ではなく、代わりのきかない能力のある人です。よい子は勉強でもスポーツでも芸術でも、他人にできないことのできる人になりましょう。