グローバル化って何?

池田 信夫

このごろグローバル化とかグローバリゼーション(globalization)という言葉をよく聞きますが、これはビジネスが地球(globe)を単位に行なわれるという意味で、国際化(internationalization)と似ていますが、ちょっとちがいます。国際化という場合は、企業は国内に工場をおいて輸出することが想定されていますが、グローバル化というときは、各国に現地法人や工場をおいて海外生産することをさします。

これを「グローバリズム」とかいってきらう人がいますが、これは「イズム」という特定の主義主張ではなく、20世紀後半からずっと起こっている事実です。iPadみたいな商品は国籍を問わないので、安くつくれる国でつくって高く売れる国で売るのは当たり前ですね。1990年代以降、中国を初めとする新興国が「世界の工場」の役割を果たすようになったので、賃金の安い国で生産するようになったのです。


ところが日本は輸出は多いのですが、海外生産の比率はまだあまり高くありません。右の図は日本の海外生産比率(資産ベース)ですが、実は植民地時代から全世界に現地法人をつくってきたイギリスの海外法人の資産がGDP(国内総生産)の6割ぐらいあるのに、日本はまだ1割程度で、アメリカの半分です。これは「国内の雇用維持」という足かせがあるためです。

このように日本の企業はまだ「グローバル化」が遅れて輸出依存の「国際化」の段階にとどまっているため、円高になると「輸出価格が上がって利益が減る」と大騒ぎします。海外生産の比率が高ければ、円高になれば為替レートの安くなった国で生産すればいいので、為替レートはこんなに大きく影響しません。

しかし2008年以降の円高の中で、海外生産比率はフロー(年間生産高/GDP)で見ると18%ぐらいまで増えてきました。特に自動車・家電のように調達がグローバル化していると、国内だけでつくっていてはコスト競争に勝てないからです。このぶん国内の正社員が減り、パートやアルバイトが増えて日本の平均賃金は下がっています。欧米でも、物価や賃金が下がる傾向が出ています。

いわば世界規模の新しい価格革命が起こっているのです。16世紀の価格革命は、新大陸から輸入された金銀のためにヨーロッパの物価が大幅に上がった現象をさしていますが、今は逆にアジア・アフリカがグローバル資本主義の「新大陸」になり、そこからの安い輸入品によって「デフレ」が起こっているわけです。

グローバル化が快適とは限りませんが、はっきりしているのは、少なくとも製造業は、国内に閉じこもっていては生き残れず、雇用も守れないということです。いわばパンドラの箱は、もう開けられたのです。これを閉じて、昔に戻ることはできません。

よい子のみなさんが大人になったころには、アフリカまで含めた国々が対等に競争し、みなさんが就職や起業する場所も全世界から選ぶようになるかもしれません。単純労働の賃金は下がるでしょうが、イノベーションで活躍できるチャンスも全世界に広がります。パンドラの箱の底には、「希望」という言葉が残っていたのです。