著者:小幡 績
出版:ダイヤモンド社
★★★★☆
バブルは資本主義の病である。その厄介なところは、いつも「今回は違う」と見えることだ。ITバブルで痛い目に合ったウォール街は「金融技術でリスクをヘッジした証券化商品なら大丈夫だ」と考えてもっと大きな住宅バブルをつくった。かつて株式と不動産でこりた日本の機関投資家は、今度は「国債なら大丈夫だろう」と考えていたが、「黒田バズーカ」はその市場を破壊してしまった。
タイトルになっている「ハイブリッド・バブル」とは、国債市場の奇妙な安定が3種類の投資家に支えられてきたことを示す。第1は合理的な外国人投資家で、日本国債のようなハイリスク・ローリターンの債券は買わない。第2はファンダメンタルズを見る投資家で、他の資産と比較して国債が割安なら買う。そして第3はテールリスクを無視して国債を買い続ける「限定合理的」な金融機関のサラリーマンだ。
これまでの国債市場の主役は第3のサラリーマンだったが、黒田バズーカによって、彼らがテールリスクを意識しはじめた。日銀に国債市場から閉め出されたメガバンクや生保などは、国債から外債やETFなどに資金を移しているが、もっともリスクの高い長期国債を大量に保有している地銀や信金などはほとんど動いていない。他に有利な融資先がなく、為替などについてのノウハウもないので動けないのだ。
結果として国債金利は上がるが、暴落は起こらない。逃げた資金を日銀が穴埋めするので、結果的に中小金融機関を日銀が救済する「管理されたバブル」が続く。これは実質的な財政ファイナンスだが、日銀が相場を支えるので暴落は起こらない。退出する機関投資家は高値で国債を売り逃げ、日銀の含み損だけがふくらみ、民間投資に回るべき資金が国に吸収されてゆく。
これが著者のいう「日本経済の安楽死」である。日銀が国債を買い占めて民間貯蓄をすべて政府が食いつぶせば、政府債務は1500兆円ぐらいまで膨張させることができるかもしれない。しかし金融資産をすべて政府が保有する状態は、もはや資本主義ではない。日本経済はゆっくり確実に、停滞から衰退に向かうだろう。それよりは財政破綻やハイパーインフレのほうがましかもしれない。