欧米では少額決済でもクレジットカードやデビットカードなどでの支払いが一般的ですが、日本ではクレジットカードの利用はまだまだあまり多くありません。むしろ、小銭払いの場合、スマホを利用したおサイフケータイやモバイルSuicaなどの交通系電子マネー、EdyやiDなどの電子マネーといったモバイル決済が広まっています。
で、この二つをつなぐかもしれないのが、ここんところドンドン出てきた各種モバイル決済サービス。日本で広く使われているモバイルSuicaなどの「NFC(Near Field Communication、近距離通信)」の技術はキャリアの得にならないせいか、世界的にそれほど活用されていませんが、最近のモバイル決済サービスはスマホのアプリとインターネットを使った決済です。
そんな5月24日、都内のホテルに関係者や取引先、報道関係者など500人以上を集め、モバイル決済サービス「znap」の発表会が開かれました。このサービスを提供しているのは、香港に拠点を持つ「MPayMe」。香港のほか、すでにニューヨークとロンドンにオフィスを構えていましたが、今回、日本法人の設立、日本における決済コンサル、ビリングシステムとの業務提携報告、同社のサービスのお披露目をした、というわけです。
※写真:右より酒匂隆雄 日本CEO、アレッサンドロ・ガドッティ グループCEO、江田敏彦 ビリングシステム代表取締役。
「znap」の特徴は、特殊な読み取りデバイスや専用回線などを必要とせず、スマホなどの携帯端末と既存のインターネット、アプリ、QRコードを使い、簡単・素早く・安全にキャッシュレスの支払いや取引ができることです。消費者は、AndroidやiOSといったスマホへ無料の「znap」アプリをダウンロード。このアプリへ自分のクレジットカード情報やモバイルバンキングのできる銀行カードなどを登録します。店側やサービス提供側が商品ごとに用意したQRコードをスマホ付属のカメラで撮影してデータを読み込み、支払い方法を選んだ後、暗唱用の四ケタのPINコードを打ち込めば商品を購入できる、という流れ。この技術、MPayMeが独自開発したシステムだそうです。
※専用アプリへクレジットカード情報などをあらかじめ入れておく。店頭や広告などのQRコードをスマホなどで読み込み、支払い方法を選んでから暗証用四ケタのPINコードを入力して確認。商品を買う、といった流れです。実際の操作感は、デモ機だからか、かなりサクサク動作する、といった印象でした。
加盟店向けのサービスでは、POSシステムやTカードのような「One to One」の情報活用も可能なようで、各種クーポンを発行したり、顧客ごとに付加サービスを変えたりできる、とのことです。クレジットカード情報を店舗側が入手することはない、とのことですが、購入履歴などを利用したパーソナルサービスで顧客の囲い込みやオンラインショップへの誘導で機会損失を減らすことが可能になるかもしれません。購買側も、QRコードさえあれば、店舗内のどこでも携帯端末を使った支払いが可能で、レジに長い列を作る必要もなくなる、とのことです。
同社サイトをみてわかるように、まだ日本語には非対応、アプリも香港版しかありません。日本では2013年の第3四半期をめどにApp StoreやGoogle Playなどからアプリが提供される予定のようです。現在、アメックス、ビザ、マスター、JCBといった各カード会社との提携が進行中で、6月には英国で試験的な運用を開始。日本でも今年7月から試験運用を始め、年内をめどに20~30社程度の取引先を確保し、2014年初めから世界での本格的な商用サービス開始へつなげていくそうです。
セキュリティについては、暗証PINコードはアプリ内にはなく、自分のスマホを使って自分だけの暗証PINコードを使うため、スマホを盗まれたり置き忘れたりした際に連絡をして利用を停止すれば悪用を未然に防ぐことができるでしょう。また、各端末はクローン防止システムがあり、サーバー側も暗号化や公開鍵基盤などの三層構造のセキュリティが備わっている、とのこと。このあたりの技術も独自開発したもののようです。
気になる手数料ですが、MPayMe日本法人CEO酒匂隆雄氏によれば「手数料について、まだ決まっていないが、加盟店、購買者のどちらにも現在の負担以上の金額にはならない」とのことです。つまり、クレジットカード利用での取引の場合、カード加盟店はカード会社との間で取り決められた手数料以上はかからないし、購買者の場合も分割やリボ払いの際の手数料や金利以外のものは請求されません。
この条件、使う際に3~5%の手数料を取られるほかのモバイル決済サービスとの差別化となりそうです。ただ「znap」加盟店には、特別なインフラ整備や読み取り機器の導入などは必要ありませんが、加盟店向けサービス料、携帯電話回線もしくはWi-Fi環境の整備の費用、またクレジットカード決済以外の場合には別途手数料が発生するようです。
「znap」を同じようなモバイル決済サービスと比べてみると、どれも購買者側に専用アプリが必要ながら、SoftBankとPayPalが始めた「PayPal Here」の場合は手数料5%(引き出し金額により別途手数料がかかる)、加盟店側に有料(1280円程度)の専用カードリーダーが必要です。クレディセゾンとコイニー「Coiney」の手数料は4%、加盟店には6月から有料になるCoineyリーダーが必要。米国の「Square」社と三井住友カードが提携した「Square」は手数料3.25%で最も安く、こっちも無償提供される専用リーダーが必要。「楽天スマートペイ」は手数料4.9%、2980円の専用カードリーダーが必要です。
こうした競合と比べると、どのサービスも利用者、購買者側はスマホなどのデバイスを用意し、専用のアプリをダウンロードしなければならず、これは「znap」に限らず同じ。加盟店側に専用リーダーは必要ない、という点が「znap」の大きなアドバンテージでしょう。さらに、クレジットカードをリーダーへ読み込ませる必要がないため、支払い手続きがかなり簡素化されています。いちいちカードを取り出したり持ち歩く手間が省ける、というわけです。
ただ「Square」も初期費用は無料で、かなり広く先行してるために手強いライバルになりそう。手数料に関しては横並びか、少し安くなるかもしれませんが、クレジットカード会社が介在する以上、これについて劇的な価格破壊は起きそうもありません。
おサイフケータイなどのNFCとの競合の側面もある、これらアプリを使ったモバイル決済サービス。eコマースについては、顧客情報の流出や横断的利用が問題にもなっています。にわかに騒がしくなって戦国時代の様相を呈してきた「モバイル決済サービス」市場ですが、いったいどこが勝ち抜くのか、各サービスで住み分けは可能なのか、彼らはNFCモバイルを「喰える」のか、加盟店側にとって、そして消費者にとっていったい何が得で何が損なのか、要注目、といったところです。