「アベノミクス」というのは、安倍さんの経済政策(エコノミックス)という意味です。この言葉を最初に使ったのは朝日新聞で、昔レーガン大統領の経済政策を「レーガノミックス」といったのにならったのだと思いますが、語呂がいいのですぐ定着しました。
その中身は、つぎのような「3本の矢」です。
- 大胆な金融政策
- 機動的な財政政策
- 成長戦略
このうち特に注目を浴びたのは、第1の矢の金融政策で、1月に日銀との共同声明で2%のインフレ目標を掲げ、日銀総裁にインフレ目標を強く主張する黒田東彦氏を任命し、彼は「量的・質的緩和」という新しい政策を4月4日に発表しました。その直後には株価は急伸したのですが、5月下旬に暴落し、今は黒田さんの就任したころと同じ水準まで下がってしまいました。
この最大の原因は、黒田さんの政策が、そのねらいとは逆に長期金利を引き上げて、金融引き締めになってしまったからです。普通はインフレになったときは金利を上げるのですが、黒田さんは「2年で2%のインフレを起こす」という一方で、国債を大量に買って金利を下げようとして、アクセルとブレーキを同時に踏んだため、市場が混乱したようです。
第2の矢は財政政策ですが、これは今までの自民党がやってきたバラマキ財政がどさくさにまぎれて復活したものです。今年度の当初予算と1月の補正予算を合わせると100兆円を超えていますが、財政赤字を増やす以外の効果は期待できません。
第3の矢は、今月中旬に産業競争力会議で発表される予定ですが、今のところ具体的な内容がわかりません。「成長戦略」というのは、たいてい役所のつくった天下り法人に予算をつけるだけです。今まで7回も成長戦略は立てられましたが、1度も成長率が上がったことがありません。本当は規制改革が大事なのですが、役所は予算を獲得できる財政政策は大好きですが、権限を減らす規制改革はいやがります。今回は「特区」で一部の地域だけでも規制改革をやろうとしているようですが、これも難航しているようです。
そうこうしているうちに株価は暴落し、企業の貸出金利は上がって、アベノミクスの「ミニバブル」は終わってしまいました。安倍内閣の最高顧問である浜田宏一さん(イェール大学名誉教授)も「インフレ目標は景気をよくするための補助的な手段。インフレなしで景気がよくなったのだから、インフレ目標はもういらない」と言っています。要するにアベノミクスの中身は、安倍さんの「輪転機をぐるぐる回してお札を印刷する」という演説だけだったわけです。
レーガノミックスにはいろいろ問題があったものの、70年代までの「大きな政府」路線を転換して自由主義的な改革を打ち出した歴史的な意味がありましたが、アベノミクスの具体的内容は、今のところ矛盾した金融政策と旧態依然のバラマキ政策だけです。せめて第3の矢で、意味のある改革をしてほしいものです。