南北で「ハーモニカ」が吹かれる時 --- 長谷川 良

アゴラ

ウィーン音楽大学のイザベラ・クラップ教授(Isabella Krapf)は先日、平壌から帰国したばかりだ。今月中にも10人の北朝鮮学生がハーモニカ留学のためウィーンに来るという。教授によると、「文化交流だから旅券は発給されるが、最高でも半年ビザだろう」という。教授は目下、北の学生たちの受入れのために多忙だ。


▲ウィーンで留学中の北の音楽学生のハーモニカ演奏(2012年3月2日撮影)


教授が昨年3月、ウィーン市5区の経済博物館で「北朝鮮とハーモニカ」というテーマで講演をした時、当方は教授と初めて知り合った。

教授は一昨年7月8日から3週間余り、平壌の「クロマティックハーモニカ学校」で15歳から20歳までの約110人の学生たちにハーモニカを教えてきた。講演では平壌での学生たちや平壌市民との交流を自身が撮影した写真を使いながら説明した。

クラップ教授は当時、「ウィーンの音楽学生たちは1日6時間の練習を要求してもできないが、北の学生たちは6時間でも7時間でも集中して練習する。その規律と熱心さには驚かされた」と語っていたが、今回は「演奏技術はいいが、創造性には欠けている」と採点が辛くなったとも聞く。学生に対する教授の要求が自然、高まってきたわけだ。もはや技術が問題ではない、演奏家の創造性が求められてきた、というわけだろう。

教授によると、「北は合唱文化(Chor Kultur)の国だ、多くの国民は一緒に合唱することを好む。また、人々は劇も好む。非常に音楽的な国民だ」という。

「私はコリアが好きだ」と宣言する教授はコリア語を流暢に話す。平壌ではコリア語で学生たちに教えてきたという。

「どこでコリア語を学んだのですか」と聞くと、「カセットや学生たちとの交流から学んできた」という。ハーモニカを通じて音楽の都ウィーンと平壌間の“音楽大使”を務める教授は何事にも意欲的だ。

ハーモニカは1820年頃、オルガンの調律用として使用され、19世紀半ば、ウィーンで人気を博した。その楽器が今、平壌の若い音楽学生の間で人気を呼んでいるわけだ。

ウィーンに留学していた15人の学生たちは昨年10月、英ブリストルのコンクールに参加し、優秀な成績を収めた。10人の学生たちも教授のもとでハーモニカを学んだ後、10月ドイツで開催予定の世界ハーモニカ・コンクールに参加する予定という。

南北両国の国民が小楽器ハーモニカを一緒に演奏する日も決して遠い先のことではないのかもしれない。教授の話を聞いていると、そのように思わされた。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年6月18日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。