FRBがもうやめると決めた量的緩和を、これから周回遅れで倍増する日銀は、いったいどういう成果を出そうとしているのだろうか。黒田総裁は「期待が上がればインフレが起こる」という漠然とした話しかしないが、岩田副総裁は「マネタリーベースと予想インフレ率には高い相関がある」と主張している。
特に副総裁候補になってからの3月4日の講演会で「当座預金残高が10%増えると、予想インフレ率は0.44%ポイント上がる」という線形の関係があり、相関係数は0.9以上だという定量的に検証可能な命題を主張していた。当時の当座預金残高は41兆円で予想インフレ率(BEI)は1.3%だったので、これを82兆円に倍増すれば、予想インフレ率は4.4%ポイント上がり、5.7%になるはずだ。結果はどうだっただろうか?
ポパーもいうように、こうした反証に対しては、いろいろな補助仮説をつければ理論を弁護できる。たとえば「予想インフレ率の変化にはラグがある」とか「BEIは正確な指標ではない」などの言い訳だ。しかしポパーは、そのように融通無碍に「免疫化」できる理論は科学ではないとして、マルクスやフロイトの理論は宗教だと断じた。
副総裁に就任後、公の場に姿を現さない岩田氏がどういう補助仮説で自説を救済するのか、楽しみにしよう。それができなければ、ポパーの基準によれば、少なくともリフレ派の理論は科学ではないことになる。これが経済学全体に一般化できるかどうかはわからないが。