組織から個人へ ~ 激減する会社数のワケ --- 山口 俊一

アゴラ

総務省が7月12日に発表した就業構造基本調査によると、非正規労働者数が初めて2000万人を超え、全労働者に占めるの割合も過去最高の38.2%を記録した。

このニュースをネットや新聞で目にした人は、「ああ、やっぱり非正規社員は増えているのか」といった印象を持つだろう。確かに非正規社員の割合は一貫して増えており、20年前の約2倍に近づこうとしている。しかし、その調査結果を詳しく見てみると、いくつか特徴的な傾向が出てくる。


就業構造基本調査は5年ごとに行われている。この表では、前回平成19年の調査と雇用形態別人数の比較を行った。

非正規社員(非正規の職員・従業員総数)の増加が突出していることは間違いないが、その内訳を見てみると特徴的なことが分かる。平成16年の労働者派遣法改正により、3年以上勤務している一定条件の派遣社員の直接雇用が義務化された。その影響が平成19年以降に出てきて、派遣社員の直接雇用は進んだが、その多くは正社員ではなく契約社員やパート社員となり、政府が意図した正社員への転換は進まなかった。まあ、この辺りまでは企業人なら予想できた。

問題は、ここからだ。

正社員が減って非正規社員が増えているだけでなく、「自営業主」「家族従業者」「会社などの役員」も大幅に減っているのである。増減率にして、いずれも二桁減となっている。

「自営業主」とは会社以外の個人商店、個人事業主など。八百屋さん、酒屋さん、喫茶店、工務店などのほか、農家、弁護士事務所なども含まれる。「家族従事者」とは、その事業主の家族従業員。これに「会社役員」も加えて、大幅に減少しているのだ。

これを裏付けるデータが、法務省が発表している登記統計。以下は、株式会社数と有限会社数を合わせた法人数の推移だ。平成18年の会社法改正により、有限会社の新規設立はできなくなったので、設立数は株式会社のみとなっている。

株式会社+有限会社数の推移

法務省の登記統計より加工

これを見れば、一目瞭然。やはり、会社数自体が激減している。設立数自体は毎年8万社程度あっても、それ以上になくなっていく会社の方が多いことを示している。当然、役員数も減るに決まっている。ちなみに、この前年の平成18年は、株式会社、有限会社を合わせた設立数が11万社であった。比較すると、8万社という年間の設立数自体も大幅に減っている。

「個人の時代」と言われて久しい。

FacebookやLinkedinなどSNSを覗けば、大企業などの組織人はおとなしく、個人事業主ばかりが目立つ。

・書店でも、組織と決別して個人としての働き方を提案する書籍で溢れている。
・インターネットは、店舗や設備を持たない者にも商売が容易にできる環境を創り出した。
・先述の会社法改正によって、資本金1円からでも株式会社がつくれるようになった。
・団塊世代の大量定年や大手企業のリストラも、中高年に対して個人としての独立を促している。

いずれの要素も、働く者に対して、組織人から個人への流れを後押ししている。

にもかかわらず、統計データは「働く人」が組織に残り、非正社員化していることを示している。若者はフリーターとして、女性はパートタイマーとして、定年後は嘱託社員として。

これは「貯蓄から投資へ」と、いくら行政や金融業界が叫んでも、個人資産の現金・預金比率が一向に下がらないことと、本質は同じではないか。

多くの有識者の未来予測や社会ムードほど、日本人の働き方における「組織から個人へ」は進まないのではないだろうか。

山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”