太陽光発電による脱原発の可能性を考える(2)~農地との比較~ --- うさみ のりや

アゴラ

前回に続き、太陽光発電による脱原発の可能性を考えてみます。一応始めに言っておきますが、僕は太陽光発電に対してかなり懐疑的なスタンスを持っている立場ですので、読者の方はその点勘違いなきようよろしくお願いいたします。とりあえず前回の試算結果から「2680平方キロメートル(静岡県の可住面積相当)を太陽光発電に充てれば、少なくとも電力量という観点だけから見れば脱原発は果たせる」ということを引き継いで議論を始めたいと思います。


さて日本で2680平方キロメートルに及ぶだだっ広い土地を新しく開拓して用意するのは困難ですから、太陽光発電設備を設置するとなると現実には工場用地か農業用地を太陽光発電向けに転用することが選択肢となります。実際現在動き出しているメガソーラー計画はいずれかのケースが多いです。ただ農地に比べれば工業用地は無視できるほど小さいですし、実際稼働している工場をつぶして太陽光発電に転用するということは、(計算するまでもなく)資産効率の観点からも雇用の観点からも非現実的ですので、「農業用地を太陽光発電施設に転用して脱原発を果たすことは現実的か?」ということを今日のお題として検討したいと思います。

農地の資産効率

全国の農地面積は4万5610平方キロメートル(ソース:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001108528)なので、後述する建ぺい率を考慮すると全国の農地の1割ほどを太陽光パネルに張り替えれば原発を代替することができます。結構低い(笑)そこで今回は「農地と太陽光発電施設のどちらが資産効率がいいのか?」という観点で検討を進めていきますただ農業と言っても幅広いのである程度比較のためには対象を絞り込む必要があります。そこで検討は保守的に行うとして、農水省のデータによると土地あたりの収益性が一番高い施設栽培農家と、太陽光発電施設の収益性を比較して考察を深めていきたいと思います。

ということで上の表(農水省資料より抜粋(http://www.maff.go.jp/j/nousei_kaikaku/n_kaigou/05/pdf/data4.pdf))によると施設野菜農家の一戸当たりの平均所得は「2.5ha あたり513万円」とのことですので、単純に513÷2.5で施設野菜の農地の資産効率は1haあたり204.1万円とさせていただきます。

 

太陽光発電施設の資産効率

続いて太陽光発電施設の資産効率の算定に入りますが、その前にいくつかの前提を置きたいと思います。
【前提】

<変換効率 :10%>

→前回記事からの引き継ぎ

<設備稼働率:11%>

→前回記事からの引き継ぎ。これに関してblogosコメント欄でも議論がありましたが、太陽光発電設備は夜は機能しない、天候に左右される、といったことを既に考慮に入れた数値(しかも実績ベース)ですのでその点勘違いなきようお願いします。

<建ぺい率:2/3>

→建ぺい率という言葉が適切かわかりませんが、発電所面積におけるパネル設置面積のことを表します。工場立地法上の工場施設の上限が75%ですから、パネル以外の関連施設が10%程度を占めると仮定して、計算を簡便化するために75%×0.9≒2/3とさせていただきました。(ソース:(http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1202/03/news113.html))

<買取価格:37.8円>

→これは固定価格買い取り制度の平成25年度の価格のとおりです。

<利益率:10%>

→一応制度設立時の想定では利益率は6%とされていたのですが(http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/003_03_00.pdf)、kw単価はこの当時想定していた32.5万にくらべ、最新ではlooop社がkw単価17.6万円を打ち出すなどと大きく変わっています。現在開催中のPVJAPANなどの展示会を見る限りメガソーラーでは収益率10%程度を謳う業者が多かったのでそれを採用することにしました。(少し古いですが参考:http://www.megasolar.biz/

 

【計算】

1㎡あたり年間発電する電力量(kwh)=1kw/㎡×変換効率×24時間×365日×設備稼働率

=1×0.1×24×365×0.11=96,36kwh

1haあたりの年間売上=37.8円×96.36kwh×10000㎡×建ぺい率(2/3)≒2428.2万円

1haあたりの年間利益=2428.2×0.1=242.8万円

 

ということでメガソーラーの資産効率は1haあたり242.8万円となります。

総評

以上の結果から少なくとも平均的に見れば、【太陽光発電設備の資産効率(242.8万円)>農地の資産効率(204.1万円)】となるわけで、農地は太陽光発電設備にしてしまった方が儲かるということになります。しかもこれはあくまで相対的に利益率が高い施設農家との比較であって、対コメ農家だと【メガソーラーの資産効率(242.8万円)>コメ農地の資産効率(55.2万円)】と変わり、太陽光発電設備の資産効率は農地の約4倍ということになり、コメを耕すのはバカらしくてたまらないという結果になってしまいます。

 

コメ農家が如何に頑張って高付加価値化を図ろうが4倍にまで収益率を高めるのは困難と言わざるを得ないので、161万ヘクタール(1万6100平方キロメートル)の水田と39.6万haの耕作放棄地は農地法という縛りがなければ、次々と太陽光発電設備に衣替えして、少なくともマクロの計算上は余裕で脱原発が達成されてしまうことが予測されます(笑)現実には太陽光発電設備もある程度立地条件を選ぶわけですから、こう単純に行くわけではないと思いますが、農地、特に水田、と太陽光発電設備は立地条件が似るので相当な割合は転用可能とみてもよいのではないでしょうか。

そんなわけで再生エネルギーの固定価格買い取り制度は農水省にとっては青天の霹靂なわけですが、農水省としては守りに入ってばかりもいられないので、農地の転用までは認めないまでも空中への太陽光パネル設置を認めて、農業と売電を両立させる方向に政策誘導を図っています。先進的な業者もそれに答える形の開発を進めており、パネルを細かくして互い違いに組んでに光が通るよう工夫したキットなどを発売しています。

ただ余計な手間がかかる分こちらの方が高くつきますし、当然耐久性も弱まるので、この手の設備が普及するかどうかは微妙というところですね。農家が売電事業を始めたら「本業は売電、副業が農家」ということになりかねなませんし、寝ても儲かる売電事業を始めたら汗水たらして農業を続ける意味を見失うのが人間というものな気がしますから耕作放棄が加速するような気もしないではないです。

そんなわけで例によって面積と資産効率だけで考えれば、本日の結論は

「固定価格制度が今の水準で続けば農地が次々と太陽光発電設備に鞍替えして余裕で脱原発が達成できる。しかし農地法により農地転用が禁じられているので歯止めがかかっている。」

ということにさせていただきたいと思います。 我ながらショッキングな結果です。。。もちろん送配電負担の問題があるのでこんな単純にはいきませんが、FITではその負担も価格に転嫁することが可能ということになっているので現実にはこちらの方向に強い推進力が働くのではないでしょうか。この試算は間違っていてほしいと我ながら思うので、間違いがあればみなさんぜひご指摘ください。

ではでは今日はこんなところで。


編集部より:このブログは「うさみのりやのブログ」2013年7月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はうさみのりやのブログをご覧ください。