今さら電波行政は不公平という、孫正義氏は経営者の鑑

山田 肇

2.5GHz帯の周波数割り当てに孫正義氏が異議を唱えた。7月26日付の読売新聞によると、孫氏は、電波監理審議会での公開ヒアリング実施を求め、「総務省の人間が密室で、主観で、書類を見て決めるプロセスがおかしい」として、行政訴訟の提起も検討する考えを明らかにしたという。

正しい意見である。移動通信事業者への周波数割り当ては事業の盛衰に影響を与える。そんな重要事項を総務省が裁量で決めるのは許されない。しかし、孫氏には発言する資格がない。自社に都合がよいときと悪いときで、発言を変えてきた過去があるからだ。


もっとも公平な割り当て方法は周波数オークションである。OECD各国をはじめ、世界中で実施されている。民主党政権で導入が検討された際、900メガヘルツ帯の割り当てについて、孫氏は、「スマートフォンが急速に普及する中、制度整備のために割り当てがずれ込むのは危険」とオークションに反対した。その結果、ドコモやKDDIのように700/900MHz帯を持っていなかったソフトバンクは、裁量のおかげで、900MHz帯を取得できた。

900MHz帯取得直後の記者会見(2012年3月1日)で、孫氏は、次に予定された700MHz帯での割り当てには参加しないと表明した。700MHz帯は、これまた裁量で、無競争で、ドコモ、KDDIとイー・アクセスに割り当てられた。その直後に、ソフトバンクはイー・アクセスを買収し700MHz帯も入手したのである。このように、総務省の裁量行政の恩恵を享受してきたのが、孫正義氏である。

僕は、週刊エコノミスト(2012年11月6日号)に「業界秩序を優先した電波行政の失敗」という論評を寄稿した。「ソフトバンクやイー・アクセスを批判したいのではない。総務省は業界秩序を優先し、『強い事業者をこれ以上強くしないようにする』『前回選定しなかった事業者を優先する』といった観点から審査してきた。『恣意的だ』という批判が根強い比較審査を続けてきたが、プラチナバンドのソフトバンクへの集中という結果に終わっているのが問題だ。」と書いたが、もちろん、これは孫氏への嫌味も込めたものだった。

そして、今度は2.5GHz帯の周波数割り当てである。孫氏はKDDI系のUQコミュニケーションズに割り当てられるのが不満で、行政訴訟も口にした。孫氏は行政訴訟が大好きだ。2004年には、第三世代携帯の周波数割り当てについて、新規参入を阻害していると、行政訴訟を起こしたこともある。その際には、アメリカに外圧を要請したという記事も残っている。しかし、翌年5月には「総務省の割当方針が確定したため、これ以上の訴訟は意味がない」という理由で行政訴訟は取り下げられた。その後は、和解路線に転じ、説明したように多くの周波数を獲得してきたのである。

周波数の獲得のためには、孫正義氏は裁量行政に従うこともあり、批判することもある。事業の盛衰に影響を当てるのだから、これは経営的には正しい行動である。しかし、自社利益を優先する経営者の意見で、電波行政が揺れるのは正しくない。この際、裁量による割り当ては終わりにして、世界標準のオークションを導入してはどうだろうか。

山田 肇 -東洋大学経済学部