製造業はAKBに学べ

池田 信夫

クルーグマンがちょっと前のコラムでしていた話だが、資本主義のゲームのルールが変わりつつあるのかもしれない。普通の経済学では賃金は労働生産性で決まり、利潤は資本の限界生産性で決まると考えるが、たとえばアップルのすごい利潤率は、とても投資に対するリターンとは考えられない独占レントである。これは道徳的に非難しているのではなく、グーグルもマイクロソフトも同じだ。

ハイテク企業ではwinner-take-allになる傾向が強いので、投資リターンよりプラットフォームを独占してレントを取るのが勝負だ。他にも、投資家が大もうけしたら、それを元手に投資してもっともうかるとか、芸能人が売れっ子になったらメディアの露出が増え、それによってさらに売れっ子になるとか、「ひとり勝ち社会」といわれる要因はレントだ。AKB48のメンバーも、一人一人はごく普通の女の子だが、演出だけでスーパースターになれる。


Economist誌は、これを”lucky-take-all society”と呼んでいる。英米でよく問題になるCEOの巨額報酬も、どこまで本人の能力かわからない。この原因は、情報の流通速度が速くなって、群衆行動(herding behavior)の効果が大きくなったためだから、この傾向は今後もますます強まるだろう。

中でも最大のレントは政府にたかることによって得られるので、ジンガレスも嘆くように、人々がrent-seekingにエネルギーを費やすのは合理的だ。ワシントンに集まる弁護士が巨額の報酬を得ることに人々が怒る気持ちも理解できるが、これは所得分配よりもレントを生み出す制度の問題で、なるべく政府の裁量を減らす規制改革が必要だ。

他方、アップルやグーグルの得ているレントはもっと複雑な問題で、むしろ企業は投資リターンより独占レントを目的として行動する時代が来たのかもしれない。日本の製造業が連敗しているのは、レントをいかに取るかという戦略がなく、バカ正直にいいものを安くつくれば売れると思っているからではないか。その意味では、日本のメーカーはAKBに学んだほうがいいのかもしれない。