消費税率を上げると税収が下がるのか

池田 信夫

去年の3党合意で決まった消費税の引き上げを「再検討する」という話は、選挙向けのリップサービスかと思っていたら、安倍首相はいまだに「8月に発表される4~6月のGDP速報値を見て判断する」と言っている。こういうとき、よく出てくるのが「消費税率を上げると景気が悪くなって全体の税収が減る」という話だが、これは小学生なみのナンセンスだ。


図1 減税(所得税・法人税)の影響(出所:経済財政白書)


全体の税収を問題にするなら、全体の税率を比較しなければ意味がない。消費税の引き上げと前後して所得税・法人税率の引き下げが行なわれ、特に1999年からは所得税の定率減税が毎年2.7兆円も行なわれ、図1のように全体の税率は低下した。もし所得税と法人税を減税しなければ、図の点線のように、その後の税収は2000年ごろには1997年を上回っていたはずだ。

消費増税後の1998年に成長率がマイナスになったことを問題にする人もいるが、この最大の原因は97年11月の拓銀・山一の破綻に続く信用収縮である。図2は民間銀行の貸し出しの推移だが、97年の12月から極端に落ち、98年度末には5%以上も下がっている。この時期には、山一の廃業にからんで富士銀行の経営危機が取り沙汰され、危ない銀行はインターバンク資金も取れない状況になっていた。


図2 民間銀行貸し出し(出所:日銀)

もちろん消費税の悪影響はゼロではないが、GDPで見ると1997年の1~3月期は駆け込み需要で成長率はプラスになり、4~6月期は増税の影響でマイナスになったが、10~12月期にはプラスに戻っている。その回復基調の経済に決定的なダメージを与えたのが、97年末から始まった信用不安だったのだ。

それより日銀の黒田総裁でさえ懸念するように、消費税の増税を先送りして財政再建の見通しが不透明になると「(国債の)リスクプレミアムの拡大から長期金利が上昇する」おそれが強い。市場も「悪い金利上昇」のリスクを懸念してか、日経平均は500円近くも下げた。日本経済の最大のリスクは、選挙が終わっても国会を通った増税さえできない腰抜けの政権である。