7月FOMC声明文はハト派寄り、QE縮小の行方は? --- 安田 佐和子

アゴラ

米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文、公表されました。

量的緩和(QE)縮小の示唆を与えず、むしろエコノミストからは「ハト派寄り」の評価が優勢です。

まずは声明文の変更点とポイントをみてみましょう。


【景況認識】

前回:「経済活動は緩やかなペースで拡大している」

今回:「経済活動は上半期に穏やかなペースで拡大した」

※米1~3月期が1.1%増、4~6月期の国内総生産(GDP)が1.7%増だったところ、成長ペースにつき「緩やか(moderate)から穏やか(modest)」へ下方修正した。

前回:「住宅市場はさらに強まりをみせるものの」

今回:「住宅市場はさらに強まり続けているが、住宅ローン金利はいく分上昇し」

※量的緩和(QE)の縮小準備とともに住宅ローン金利が2011年8月以来の高水準へ上振れし、米MBA週間住宅ローン申請件数指数が7週続落した点に配慮。

【統治目標の遵守について】

前回:「経済は緩やかなペースで成長し、」

今回:「経済成長は足元のペースから上向き、」

※現状の成長ペースが鈍い点を強調、出口入りに慎重なスタンスを点灯か。

前回:「委員会はまた、インフレが中期的に目標値の2%、あるいは同水準以下で推移すると予想している。」

今回:「委員会はまた、インフレが中期的に目標値の2%を下回って推移すれば経済活動にリスクを及ぼすと認識する一方、中期的には同水準を回復すると予想している。」

※インフレ目標値2%割れの現状に対し、ディスインフレの懸念を点灯か。低インフレへの懸念を盛り込むべきとして前回の投票で反対票を投じたセントルイス連銀のブラード総裁は、今回賛成に回った。

【追加緩和策について】

「委員会は労働市場およびインフレの見通しの変化に伴い、適切な緩和策を維持するため買取ペース拡大あるいは縮小する用意がある」を維持。

【政策金利について】

前回:「最大限の雇用と物価安定へ向けた進展を支援するため、委員会は資産買取が終了した後、あるいは経済回復が強まった後でも金融政策における高い緩和スタンスが長きにわたり続くことが適切と予想する。」

今回:「最大限の雇用と物価安定へ向けた進展を支援するため、委員会は資産買取が終了し、経済回復が強まった後でも金融政策における高い緩和スタンスが長きにわたり続くことが適切との見方を本日、再確認した」

※QE終了後も低金利を継続させるスタンスを強調。

・2012年12月に導入した数値目標、すなわち「1~2年先のインフレ率の見通しが2.5%以下、失業率が6.5%以上」の水準を続ける限り「例外的な低金利」政策を維持するとあらためて説明。そのほかの労働市場、インフレ動向および見通し、金融市場の動向と照らし合わせ、金融緩和の解除の判断材料とする。

【票決結果】

今回:地区連銀の投票メンバーは2013年、セントルイス連銀のブラード総裁、シカゴ連銀のエバンス総裁、ボストン連銀のローゼングレン総裁、カンザスシティ連銀のウィリアムズ総裁。反対票は、前年のリッチモンド連銀のラッカー総裁に代わり同じくタカ派で知られるカンザスシティ連銀のジョージ総裁で、長期的な緩和政策に反対票を投じた。前回、低インフレへの懸念を盛り込むべきと反対票を投じたセントルイス連銀のブラード総裁は、統治目標の箇所で「インフレが中期的に目標値の2%を下回って推移すれば経済活動にリスクを及ぼすと認識する一方・・」との文言を追加したため、今回賛成票に回る。

ブラード総裁、タカ派として知られながら最近はハト派に鞍替え。

エコノミストの評価はと申しますと。

バークレイズ・キャピタルのディーン・マキ主席エコノミスト、マイケル・ゲイピン米エコノミスト

FOMC声明文は穏やかな成長、住宅ローン金利の上昇、低インフレなどに言及し全体的にハト派寄りだった。とはいえ大きな変更とは解釈しておらず、資産買入の縮小ペースと利上げ開始の決定が全く異なるという点を強調したに過ぎないとみなしている。当方は米雇用統計が向こう2ヵ月間で強い内容を示せば、9月に資産買入を縮小するとの予想を据え置く。

BNPパリバのジュリア・コロナド米国担当主席エコノミスト

FOMC声明文は潜在成長率を下回る経済成長、住宅ローン金利上昇に伴うリスク、インフレが2%割れでの経済動向に懸念を示した。バーナンキFRB議長が6月FOMC後の記者会見および7月17日の議会証言で言及したにも関わらず、資産買入の縮小に言及しなかった点は驚きに値する。全体的な内容を踏まえ、FOMCはハト派寄りを強めたと判断する。買い入れ縮小についての文言が見当たらず、9月実施の可能性は後退したといえよう。

資産買入の縮小に触れなかった背景は、米4~6月期国内総生産(GDP)の内容につき、FOMC参加者がマーケットと異なる認識をもったと考えている。上半期の成長率は平均1.4%増にとどまり、2013年末成長見通しが2.3~2.8%である点を踏まえると、下半期GDPは3.5%増へ加速する必要がある。達成が困難なだけでなく、9月FOMCで成長見通しを再び下方修正する可能性が出てきた。その上、6月議事録では「数人のメンバーは買入縮小には経済活動が加速する証左を見極める必要があるとみなしていた」との表記されており、当方はFOMCの縮小時期を早くて12月とする予想で据え置く。

以上のようにQE縮小観測、再び9月と12月の間で揺れ動き始めたようです。米7月ADP全国雇用者数をみると米7月雇用統計は4ヵ月連続で20万件付近をたどる期待が高く、メインシナリオは9月でしょうが・・。FOMC事前調査とかい離が生じるのか、楽しみですね。ますます雇用統計に目が離せなくなってきました。

さて金融政策の今後を占うFRB議長人事も、ますます混戦模様となってきた感がございます。

本日は英フィナンシャル・タイムズ紙が、オバマ米大統領はドナルド・コーン前FRB副議長を検討していると報じました。

コーンさん、思わずニュースを見て高笑い?

コーン氏、グリーンスパン前FRB議長に金融政策を指南したベテランでもあります。70歳という高齢が気になるきらいはありますが、FRBに40年勤務して金融政策の津々浦々を熟知するだけでなく、2006年から2010年に副議長を務め金融危機に対応してきました。

オバマ大統領としては、候補に挙げて不足はございません。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2013年7月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。