JR東海の「未来への投資」に学ぶ --- 岡本 裕明

アゴラ

少し前の日経ビジネスに東海旅客鉄道(JR東海)の山田佳臣社長のインタビュー記事があります。その中のキーワードは「未来への投資」。実に響きがよい言葉です。同社が推進するリニアモーターカーが東京~名古屋間を2027年に40分で結ぶ計画が進んでいます。そして、その建設費は今までの鉄道の常識を覆した全額JR負担であります。


その中核の理由となるのが今回のインタビューでも説明されていますが、「国に(資金援助を)頼っていたら数ある整備新幹線の後回しになるからいつになるかわからない。だが、東海道新幹線は既に開業して来年で50年となり、その「不具合」も増えてくるので新たなる基盤となる路線が必要だった」(要約)と述べています。

山田社長の論理は建物も60年程度で立て替える時代ならば新幹線も一定の年齢になれば当然更新されなくてはいけないが鉄道というインフラ要素の強い事業は国の予算が常に絡んでくるため、民間ベースではその意図の通りにならないことを懸念しています。結果として公共性の高い事業で資金負担を国や地方自治体に負担させることも出来るのにそれをあえて排除しました。私は特にそのきっかけになったのが新幹線の南びわ湖駅構想だったと思います。総論賛成各論反対の中、資金負担等の問題に直面したJRがとった結論は駅建設の凍結。そこにはJRの強い意志が感じられます。

さて、JRの「未来への投資」という点ではなるほどと思わせる内容でありますが、皆さんも未来への投資は日々の生活で必ず行っていることと思います。例えば洋服を買うというのは今着ている服がそろそろ古くなったから買うとか、家の風呂やトイレの改装、更にはバリアフリーにするなど、将来を見据えたものの考え方であります。子供の教育などは最たるものであります。ならばそれをもっとビジネスや人生設計の中に取り込んでみたらどうでしょうか?

JRの場合は一つの鉄道の管理寿命を60年程度と見立て、それまでシームレスで新たなものに作り変えるとしています。企業の場合には固定資産を購入すると減価償却というプロセスを経て一定期間にその価値は減価していきます。ならば、今自分がやっているビジネスも時間と共にしぼんでいくという発想は可能です。例えばスポーツ選手の寿命は15年程度でしょうか? モデルさんは数年で旬を終わることもあります。

今はやりのレストランの経営者も同じメニューに頼っていれば1~2年後には競合相手が現れて陳腐化し、いつの間にか忘れ去られる存在になります。それは強い人気店や人気商品であればあるほどその栄枯盛衰の波は大きくなります。

ならば、ビジネスや長い人生をストレスなく楽しむには自分の未来への投資をし続け、今やっていることが廃れたり、飽きたり、壊れたり、なくなったりしたときに困らないようにすることが重要なことはいうまでもありません。ビジネスで言えば3年後の予想をした上でそのビジネスが存在しているのか、別のジャンルに吸収されているのか、ということまで計算しなくてはいけません。

あるいは人生ならば会社人生が終わったあと、突然、行き場を失うのか、趣味の世界を準備していて、退職後に本格的にその道に移行していくなど「備えあれば憂いなし」とはこのことなのです。

JRの話からずいぶん飛躍してしまいましたが、未来への投資とはそれぐらい美しい言葉だと思います。私も2027年にリニアが出来て名古屋に40分でいける未来を想像しながら14年後の自分を組み立てています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月1日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。