問題は「第三の矢」だ - 『ニッポン再起動』

池田 信夫

ニッポン再起動 こうすれば日本はよくなる!
著者:竹中 平蔵
出版:PHP研究所
★★★☆☆


著者は政府の産業競争力会議の民間議員だから、アベノミクスを支持するのは当然だが、微妙にニュアンスが変わっている。「第一の矢」である金融政策についての言及は数ページしかなく、しかも「デフレの原因は技術革新とグローバル化だ」という。これは拙著の第3章と同じ意見である。日銀については量的緩和が慎重すぎたと批判している程度だ。

「第二の矢」である財政出動には批判的で、むしろ財政再建の道筋を明確化する必要があるという。これも著者が『日本経済「余命3年」財政危機をいかに乗り越えるか』で、われわれと一緒に論じた点だ。

本書の大部分を占めるのは「第三の矢」である。それも「成長戦略」には否定的で、規制改革しかないという。その内容は特区や雇用改革など安倍政権の政策だが、おもしろいのは「雇用の流動化より社長の流動化が重要だ」という話だ。日本の労働市場に問題があることはよく知られているが、労働者の「現場力」はまだまだ強い。問題は大胆な経営戦略を実行する経営者がいないことだ。

その原因は、年功序列の雇用慣行の中で、敵の少ない調整役が内部昇進で社長になり、各部門の合意で経営方針を決めるからだ。こういう経営からは、決してアップルやグーグルのようなイノベーションは出てこない。むしろ社外取締役を増やし、企業買収など資本市場の活用で経営者を流動化させる必要がある。

ただし著者が「期待は実現する」というのは疑問だ。たしかに安倍首相が「日銀がお札を印刷したら景気がよくなる」などと主張して市場の雰囲気を明るくした功績は大きいが、それは経済的根拠のない偽薬効果であり、期待が覚めると元に戻ってしまう。必要なのは、偽薬のききめが切れる前に著者のいうような実体経済の改革を進めることである。