ネットによる選挙活動が解禁された先の参議院議員選挙でも明らかになったことは、ウェブの力は既に顧客(支持者)である人たちとの関係を深めることにあり、新たに顧客層を広めることではない、ということである。
これは、ライフネット生命のマーケティング活動をやっていても、日々感じることである。
そもそもネット(ソーシャルメディア)は面白い話題、人に伝えずにはいられない話を拡散することはできるが、つまらないコンテンツを面白くすることはできない。その意味で、そもそも政治活動やら生命保険やらがネット上で大いに話題になることは難しい。 そして、多少ネット上で話題になったとしても、ほとんど実際のビジネス、消費者の購買行動や有権者の投票行動には影響がないのである。
もちろん、クーポンやタイムセールなどの購買情報は拡散できるし、購買に結び付くだろうが、選挙や、生命保険のような、信頼関係が求められる顧客層について、意味のある単位で売上の数字が跳ね上げること、顧客層を拡大することには適していない、ということである。
唯一、ネットで爆発的な拡散力があるのは、ヤフーのトップページくらいだが、もはやあのページはネットというより、1対Nで大量の視聴者を持つ、テレビ的な媒体と考えるべきだろ。
イベント情報やマスコミ露出情報をネットで「拡散希望」とやったりもするが、あれによって基本的には大勢の新規顧客に広まることはなく、既にある程度知っていたり、興味がある人たちの間での連絡網のような役割しか果たさない。選挙で言えば、支持層との関係を深め、強化することである。
もちろん、既に知っていたり、興味がある人たちとの間での関係を深めるには極めて有益なツールだとは考えている。新規顧客拡大ではなく、既存顧客(あるいは強い関心のある見込み顧客)との関係を深めるという前提で使いこなすべき、ということを言いたいのだ。ソーシャルメディアを通じた顧客拡大をうたう広告代理店の営業には注意しましょう。
インターネットが登場した1990年代半ばから後半にかけて、我が古巣のボストンコンサルティンググループはインターネットが従来のメディアの「リーチとリッチネスのトレードオフを打ち破った」と論じた。大勢の人に届けるには薄い情報になる、濃く伝えるとすると狭い範囲でしか届けられなかった伝統的メディアとは異なり、インターネットによって大勢の人に濃い情報を伝えることができる、と分析したのである。
しかし、実際にどうなったかというと、インターネット上で情報があふれるなか、結局のところ、広く届く情報は薄くにしかならないし、濃い繋がりを構築するには狭い範囲でしかできない。結局、インターネットが出現したところで、本質的なトレードオフを打ち破ることはできていない、そう考えたわけだ。
久しぶりのブログでした。
編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2013年8月8日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。