エドワード・スノーデン元アメリカ中央情報局(CIA)職員によってもたらされた国家安全保障局(NSA)による大量の個人情報収集事実のリークは氏の亡命がロシアに一旦落ち着いたところで思わぬ展開となってきました。それはオバマ大統領のロシア、プーチン大統領との会談の中止であります。
いったいなぜこんなことになっているのでしょうか? 多分ですが、かなり、奥深い、そして、一般には知られていない裏話が相当あるのだろうと想像しますが、限られた情報から推測してみます。
事の発端はスノーデン氏がリークした内容であります。それはアメリカの主要ネット各社、アップル、グーグル、フェイスブックなどの情報がPRISMというデータ収集システムを通じ個人情報が収集されていたということであります。これは米国一般人の情報が捜査令状なく監視されていることを意味し、それが法律に触れていないとされるものの、米国のみならず世界を震撼させました。
当のスノーデン氏は香港経由でロシア、モスクワに到着後、長らくモスクワ空港のロシア入国前のエリアに滞在していたものの一時的な入国の許可が下りたことを受け、アメリカ側が猛反発し、その流れで来月に予定されていた米ロ首脳会談がキャンセルされたものであります。
このニュース、良く考えてみると不思議な話であります。もともと、アメリカの国家安全保障局が個人情報をせっせと無許可で収集していた事実を暴露されたわけですから事の発端はアメリカにすべてあります。そして、アメリカはスノーデン氏のパスポートをロシアに滞在中に失効させてしまいました。つまり、スノーデン氏は形式上動けないのですが、ロシア側が身柄引渡し要求を見送っていることにアメリカが反発しているのだろうと思います。ではロシアは身柄を返せばよいではないか、と思う方もいるかと思いますが、それは外交。ディールなくして普通は返さないものです。
つまり、アメリカ側から首脳会談をキャンセルする積極的理由や正当性が汲みにくいとも取れ、そういう行動に出た真意はなんだったのか、というのが気になるところです。
私なりの勝手な根拠なき想像としてはスノーデン氏が持つであろう情報がロシアなどに漏洩するのを嫌ったのが第一義でもっともな理由です。ですが、香港であっさりとロシアにリリースしているところを見れば中国政府が何故もっと興味を示さなかったのか、という疑問が生じます。とすればスノーデン氏はさほどの情報を持っていないとする見方も出来るのですが、香港滞在日数が短かったことを踏まえればその線もちょっと薄い気がします。
では、なぜ首脳会談をキャンセルするのか、といえば私はアメリカの精巧な戦術のような気がするのです。つまり、本来であれば安全保障局が攻められ、オバマ大統領の責任が問われる可能性があるのですが、議会を含めアメリカ国民の怒りの矛先をロシアに向けることで事態の収拾を図っているように見えるのです。
ロシアとしてははた迷惑な話で勝手にけんかを売られ、一方的に「切れられた」形になっています。
では、巷に言うほどロシアとアメリカの関係は悪いのかといえばロシアにアメリカと今バトルするだけのパワーはないように思えますから単にプーチン氏とのソリの問題に思えます。ロシアのGDPと資源価格は低迷し、プーチン氏の支持率も低くわざわざアメリカと敵対関係を結ぶ状況にないように思えます。確かにシリア問題などで米ロの考えの相違はあるものの大局的にみれば比較的小さい事象であります。
アメリカも本気でロシアを苛めるつもりがあるのかやや首を傾げたくなります。
ところでロシアとアメリカが揉めたら日本が困る事象があります。それは北方領土交渉です。ようやく始まった領土交渉の下地となる平和条約の交渉は日ロ双方にとり、大きなメリットがあります。しかし、日本は当然ながら経済援助など相当の「譲歩」が前提と見られ、その譲歩の内容次第では日本の外務省のアメリカスクールがアメリカ外務当局から責められ、外務省内でのせめぎ合いが起きる可能性はあります。北方領土問題解決の裏の鍵はアメリカが握っているというのはさほどはずしていないはずです。
そういう意味からはスノーデン問題はさまざまな影響を及ぼす可能性もあり、見方を変えれば目が離せないということになるのでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。