消費増税より大きなダメージ - 『原発の正しい「やめさせ方」』

池田 信夫
石川和男
PHP研究所
★★★★☆



中央自動車道の笹子トンネルで天井板が落下する事故が起き、9人が死亡した。これについて政府は「トンネルの安全神話は崩壊した」との声明を出し、すべてのトンネルを通行禁止にして「ストレステスト」を命じた。全国でテストが行なわれたが、合格したトンネルも通行禁止のままで、今度は「トンネル規制委員会」が「活断層の上にあるトンネルは危険だからすべて廃止する」という方針を出した。

――これは笑い話ではない。「トンネル」を「原発」に置き換えると、政府が行なっている政策である。しかも原発の停止による損害はトンネルの比ではない。この2年余りですでに6兆円が失われ、安全審査が完了するまで動かさないとすると、合計20兆円近い燃料費が浪費される。これは電気代に転嫁されるので、全国の電気代が2割以上あがり、製造業は日本から出て行くだろう。

原発を長期的に減らすことについては著者も賛成している。現状ではリスクが大きすぎ、新設する電力会社もないので、寿命が来たら徐々に減ってゆくだろう。しかし既存の原発を止めることは別の問題である。原発の運転コストは1~2円/kWhと、火力に比べて桁違いに安い。ただちに再稼働し、なるべく長期間使えるように安全管理すべきだ。

政府の決めた「電力自由化」について、著者は懐疑的である。諸外国の例をみても、自由化して安くなった国がほとんどないからだ。日本でも大口電力に限って自由化されたが、新電力のシェアは10年たっても3%。それは電力産業が規模の経済の極端に大きな産業だからである。現に日本でも、電力会社の経営がここまで悪化しても、電力に新規参入する企業がほとんどない。

最大の問題は、著者も指摘するように、安倍政権がこの問題から逃げていることだ。2011年5月6日に菅直人首相が違法な「お願い」で止めるまで、全国の原発は普通に動いていたのだ。そして経産省は今も「定期検査を終えた原発は適法に運転できる」という見解をとっている。トンネルを安全にするために補強工事をするのは結構なことだが、全国のトンネルを通行禁止にする必要はない。

必要なら「安全審査と並行して、ストレステストの終わった原発は運転再開する」という閣議決定さえすれば、再稼働は明日にでも可能である。しかし「空気」を恐れる安倍首相は、再稼働にはほとんど言及もしない。最悪の場合、ホルムズ海峡が封鎖されると日本経済は壊滅する。原発停止をこのまま放置していると、安倍氏のいやがる消費税の増税よりはるかに大きなダメージになるだろう。