「私には夢がある」から50周年、アメリカの今 --- 安田 佐和子

アゴラ

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が1963年8月28日、ワシントンD.C.のリンカーン広場で行った名演説「私には夢がある(I have a dream)」。奴隷解放宣言100年を経てもなお残る人種差別の撤廃を求め、ワシントン大行進を率いたキング牧師のあのスピーチは、ワタクシも高校時代に暗誦しました。歴史に残る珠玉の言葉に、心が揺れ動いたものです。


「私には夢がある。私の4人の子供たちがいつの日か、肌の色ではなく彼らの性格で判断される国に住むことを。」

あれから、50年。グーグルがキング牧師の姿をカバーに据えたほか、各メディアはあらゆる特集を組んでいます。例えば、NBCのこちら。人権活動家、著名人、スポーツ選手、コメディアンなどが登場し、それぞれの夢を語っていますよ。

ダライ・ラマ14世の夢は、「いつの日か全人類がひとつの幸せな家族になること」。

他にもニュージャージー州のニューアーク市長であるコリー・ブッカー氏、2012年大統領選の共和党候補だったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事、ブッシュ前大統領の次女ジェナ・ブッシュ氏、中国系アメリカ人のNBA選手ジェレミー・リン選手、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が登場します。

あれから50年、アメリカは変わったのでしょうか。

確かに大リーガー初の黒人選手となったジャッキー・ロビンソン氏が生きた時代やキング牧師が公民権運動をけん引した時代とは違い、人種分離法は存在しません。ところが、奇しくもキング牧師のI have a dream演説50周年の前日、こんなニュースが飛び出したんです。

「メリルリンチ、人種差別をめぐる訴訟につき1億6000万ドルで和解」

人種差別が未だに息づくテネシー州ナッシュビルのファイナンシャル・アドバイザー、ジョージ・マクレイノルズ氏が2005年に提訴し、原告が約1200名に膨れ上がった集団訴訟です。メリルリンチがFA資格をもつ黒人の従業員に対し秘書のような役割しか与えず大口投資家を白人のみに振り分けた結果、賃金格差が生じていたといいます。運命のいたずらか、奇しくも50周年記念日の前日にあたる27日、原告団が勝利をもぎとったかたちです。

残念ながら黒人だけではなく、アジア系の差別やらヒスパニックへのヘイト・クライムなど人種差別が引き起こす憎悪は今でもあちらこちらで見受けられます。キング牧師の夢には、まだほど遠い現状。だからこそ、名演説を語り継いでいきたいですね。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2013年8月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。