「焼酎ファンド」と投資の本質

森本 紀行

世の中には、時間の経過とともに価値の上昇するものが少なくない。例えば、今、焼酎ブームだそうだが、焼酎も熟成させた古酒となれば、値段が高くなるはずである。


さて、私が焼酎の生産者であって、年間1億円出荷しているとする。低価格の普通の焼酎からの脱却を目指して、10年熟成物に切り替えたいのだが。一番簡単なのは、10年間出荷を停止して、10年後から全量を10年物として出荷再開すればいい。しかし、それでは10年間売り上げがゼロになってしまう。生活に困る。

もっとも、現状収支トントンだから、1年分の費用(生活費も含む)は1億円、10年で10億円、その資金調達ができればいいのだ。

年率7%の金利で1億円を10年間借りて元利一括返済すると、返済額は約2億円である。ということは、7%の金利を払っても、10年熟成することで、2倍以上の価格で売れるのならば、事業価値はあるということだ。

一般に、資産(ここでは焼酎)の価格の伸び率の期待値が、債務の伸び率を上回る限り、事業として機能する。事業として機能するものは、一般に、投資対象としても構成できる。つまり、「ファンド」にも構成できる。

焼酎担保に、担保掛目なしで、年商1億円の零細業者に、最大10億円、しかも元利一括弁済などという破格な条件で融資する銀行などは、あり得ない。「ファンド」というのは、銀行等が融資という形では資金供給を行い得ない場合に求められる代替的金融手段である。

「ファンド」という形式で投資することを考えると、焼酎価格が10年で2倍以上になるならば、結果的に「ファンド」の出資者に7%以上のリターンを還元できるのだから、十分に成り立つ仕組みなのである。

「焼酎ファンド」の収益源泉は、時間の利益だ。時間が価値を高めるからこそ、時間を買わなければならない。時間を買うことが、焼酎生産者の立場から見たときの資金調達であり、投資家の立場から見たときの資金供給になる。投資とは、時間の利益を供与することなのだ。そして、時間の値段が収益率である。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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