PRESIDENT「あぜん...地方議会は今もパソコン持ち込み禁止」の嘘。だから地方議員はダメ

高橋 亮平

PRESIDENTの記事を読んで、事実と異なる様に思う。
多くの議会ではICT化が遅れており、意識改革も含めこうした改革が望まれるというところについては、まったく異論はない。
しかし、「あぜん...地方議会は今もパソコン持ち込み禁止」という触れ込みには、いささか問題を感じる。

全国の多くの地方議会で、急に議員がパソコンを本会議に持ち込んだ際に、本当にそれは止められるのかについて考えてみたい。

PRESIDENTの記事では、市議会議長会の行っている「市議会活動に関する実態調査」の中で、本会議場における「議員のパソコン使用を許可している」と回答している市議会が29市(3.6%)しかないとされている事を、地方議会は「今もパソコン持ち込み禁止」として書いているのだが、この部分が事実と大きく異なる様に思う。数学の集合の基本だが、「許可している」の補集合は「禁止している」ではない。当然、その間には「許可はしていないが、禁止もしていない」が存在する。


議会には、議会のルールが定められた議会会議規則というものがある。この会議規則、中央集権の時代の中でつくられたものであり、多くの自治体でまったく同じ会議規則から始まっている。長年年月が経つ中で、細かい修正はそれぞれの自治体で行われているものの、どの自治体でもほぼ同じものを使っている。

例示されていた多摩市議会の会議規則を見ても、携帯品に関する条文については、第5章「規律」(品位の尊重)第145条に「議員は、議会の品位を重んじなければならない。」、(携帯品)第146条に「議場又は委員会の会議室に入る者は、帽子、外とう、えり巻、つえ、かさの類を着用し、又は携帯してはならない。ただし、病気その他の理由により議長の許可を得たときは、この限りでない。」としか定められていない。

私自身、議員時代に、先輩議員や議会事務局から「パソコンの持ち込みはできない」と聞いていたが、「何を根拠にパソコンの持ち込みが禁止なのか」とつめると、実際には「パソコンの持ち込みを禁止した規則」などはなく、上記会議規則中の「帽子、外とう、えり巻、つえ、かさの類」と説明された。この時合わせて言われたのは、「こんな事まで聞く議員はこれまでいなかった」という事だった。

超党派400人の地方議員組織である全国若手市議会議員の会の会長も務め、全国の多くの議員仲間に、どういう形で禁止されているかと聞いてみた事があるが、パソコン持ち込み禁止の規定を作っていたり、議会会議規則の携帯品に加えた議会は聞いた事がない。

上記の様に「帽子、外とう、えり巻、つえ、かさの類」という事であれば、おそらくより回りに迷惑をかける恐れの高い「携帯電話」の持ち込みも同様に禁止されているように思うが、実際には、ほとんどの議会で議員たちは携帯電話を持ち込んでいる。

もう一つ、この会議規則146条の携帯品に関わる規定で面白いのは、対象が「議員」に限らず「議場又は委員会の会議室に入る者」であることだ。
上述の様に考えれば、例えば、電卓なども持ち込む際も、同様にこの規定に絡んでいる可能性もあり、少なくとも書類でない事を考えれば議長に許可などが必要なのではないかと思ったりもするが、実際には、予算や決算の際など、職員はほぼ確実に電卓を持参するが、「議長に許可を得た」などとは聞いた事がないし、「電卓や携帯は持ち込んでいいと決めた」とも聞いた事はない。

つまり規定で禁止されているもの以外は、基本的に持ち込める形で運用されており、多くの自治体で議員が本会議場にパソコンを持ち込んだ場合、それを止める方法があまりないのではないかと思うのだ。

今回の記事を読んで、多摩市議会事務局に問い合わせたところ、多摩市にもパソコン本会議場に持ち込めないという規定などはなく、数年前の議運営委員会の申し合わせの中で決めただけだとの事だった。ちなみに多摩市議会では、委員会についてはパソコンの持ち込みが申し合わせで認められているそうで、少なくとも議会すべてにパソコンが持ち込めないわけではない。

次に、議会運営委員会の申し合わせについてだが、これはあくまで議員間の約束でしかなく、議会の規則というわけではないということだ。
例えば、自治体によって、議長の任期が2年や4年と定められているにも関わらず、この申し合わせで1年ごとに議長を変える事になっていたりするところがある。
もちろんこれは、できるだけ多くの人が「議長経験者」になるための互助会的な悪しき取り決めだが、この事によって、毎年議長が「一身上の都合」により突然議長を辞めるという不思議な出来事が起こる。ただ、これはあくまでも申し合わせ、つまり議員同士の約束でしかないため、まれに辞めずに任期を全うする議長が出てきてしまったりする。
これこそ正に、議運の申し合わせは、必ずしも議会の規則ではない事を示したものでもある。

多摩市議会事務局への問い合わせの中で、「議会運営委員会で申し合わせができてしまったパソコンではなく、タブレットを議員が急に本会議場に持ち込んでしまった場合、どうやって対応しますか」と聞いてみたところ、「対応のしようがありません」との事だった。

つまり、結果的にだが、「パソコンを持ち込めない」というルールを作ったのは、数年前、議会運営委員会に「パソコンを持ち込んでもいいか」と聞いてしまった事に始まっているとも言えるのだ。

今回、書きたかったのは、決して揚げ足を取ろうというものではなく、議員や事務局自身も「決まっている」と思い込んでいるものの中にも、「実は決まっていない」というものが、実際には、数多くあるという事、とくに立法府という役割を担っている議員においては、「あれもできない、これもできない」ではなく、「どうすればできるのか」を考えて、現行でもできる方法を考えてもらいたいと思う。

全国の議会の中では、全議員にタブレットを配布して、本会議で活用しているという議会もある。
議員には、こうした議会改革を進めるとともに、そのためにも現行でできる実績を積み重ねる事による改革も進めてもらえればと思う。

世の中には、「決まっている」と思っているものの中に、「実は決まってなんかない」というものも数多くある。規制改革はもちろんであるが、その前に、「本当に規制なのか」と考えてみるのはどうだろうか。