9月16日、シリアでの化学兵器使用疑惑に関する国連の調査報告は、8月21日のダマスカス近郊への攻撃で、サリンを充填したロケット弾が使用されたと断定した。ただし、このサリン弾が政府側と反政府側のどちらの陣営によって使われたかについては明らかにしていない。
そもそもこの国連調査団の任務は、あくまでシリア国内で化学兵器が使用されたかどうかを判断することのみであり、どちらの陣営によって使用されたかについての調査は任務内容に含まれてすらいない。
常識的に考えて、シリア内戦で化学兵器が使用されたのであれば、どちらの陣営が使用したのかは非常に重要な問題となるはずである。その結果如何によって、国際社会によるシリア内戦への介入の仕方も当然異なってくるはずだからだ。
だが、この国連調査団は、その問いに対する答えを明言することを避けたばかりか、そもそも最初からその問題を調査対象としなかった。この理由は、いずれの答えが出ようとも、国連安保理の常任理事国であるアメリカもしくはロシアのどちらかからの批判を必ず受けるからであろう。すなわち、アメリカは「化学兵器はアサド政権側が使用した」と主張するであろうし、ロシアは「反政府側が使用した」と主張するだろう。つまり国連調査団は両者の間の板挟みにあい、あえてこの問題に取り組むことをはじめから避けたのである。
この事実は、今の国連の権威を示している。国連は、安保理常任理事国を超える権威は持ち合わせていない。彼らのいずれかに反対されたら何もできず機能不全に陥るのだ。
しかし、シリアでの深刻な事態に対して国連が何もできないという状況を、国際世論がそのまま黙って受け入れられるものでもない。国連が何もできないのであれば、「独自のアプローチを使ってでもシリア内戦に介入し、人道的に求められる役割を果たせ」という圧力を欧米先進国は受けることになるだろう。既に米英仏は、今回の国連調査報告を受けて、化学兵器の使用はアサド政権によるものであると主張し、介入への姿勢を強めている。
もし、アサド政権側によって既に化学兵器が使用されたのだとすれば、先日のシリアの化学兵器廃棄に向けた米ロ合意は覆される可能性が高い。国連が安保理常任理事国に対しても毅然とした態度を取り、どちらの陣営が化学兵器を使用したか堂々と調査し結果を公開できない限り、有効な国連安保理決議なしに、なし崩し的にシリアへの軍事介入へとつながる可能性が高いだろう。
青木 祐太
東京工業大学 博士課程2年