孫さんのヤフー出店料無料の決断は「暴挙」である --- 岡本 裕明

アゴラ

ヤフーがインターネット通販サイトとオークションサイトへの出店料を無料にすると発表しました。それまで初期費用21000円、月額25000円、ロイヤルティ1.7~6%を全部無料にするというのですからビジネスモデルを破壊したといってもよいでしょう。ではヤフーはどうやって儲けるのかといえば出展者からの広告料だということです。

さて、この発表を受けてヤフーは売り上げ減に繋がるとみられることから株式は売られ、その大株主のソフトバンクも売られ、挙句の果てにライバルの楽天は暴落という状況に見舞われました。

私はこの決断はかなりの暴挙ではないかと思います。


ヤフーはもともと利益率の高い会社でインターネット通販やオークションは稼ぐ駒のひとつぐらいのものだと思います。ですが、その分野では歴史があり、一時はDeNAと激しく争ったりしたものです。つまり、ヤフーからすればネットショッピング分野では一定のマーケットシェアを確保したいという強い経営的戦略はあるのだろうと思います。そんな中、LINEが近々にショッピングサイトを立ち上げる予定ですが、今後、この分野に新たなる参入者が続々と入り込む可能性は否定できず、ならば、差別化をどうやって図るか検討していたものと思われます。

その結果が無料化ということなのでしょう。実はこのニュースを聞いた瞬間、ヤフーはアマゾンのジェフベゾスを真似たか、と思いました。ご記憶にあるかと思いますが、アマゾンがタブレット、キンドルを発売した時、その価格は破壊的なものでした。その際、ベゾス社長は「当社はタブレットで儲けるつもりはない。あくまでもこれを使って商品を買ってもらうことで儲ける」という趣旨の発言をしたことがあまりにも衝撃的でありました。なぜなら、その価格戦略がまかり通りいわゆるBtoCの垂直型ビジネスモデルが完成したならば垂直の途中分野の利益は放棄でき、コアビジネスに集中できることになるのです。

ご承知のとおり、ビジネスというのは重層構造であって、ひとつのサービスや製品を作るのに多くの会社や人がたずさわって最終プロダクトに到達するわけです。仮に市場占有率の高い企業がコアビジネス以外の部分を破壊的価格で提供すればその業種には果てしない影響を与えることも可能になると考えられました。

ところが蓋を開ければアマゾンのキンドルがタブレット市場で高いマーケットシェアを誇るかといえばそうでもありません。アメリカではクリスマスなどのギフトでは良く売れるとされるものの3%台に留まり話題の割にはあまり売れていないということでしょう。これが何を意味するかといえば、破壊的価格に消費者は惑わされないということかもしれません。つまり、どうせ買うなら信用のおける専門の会社で買いたいのかもしれません。

今回、ヤフーが行おうとしてる出店無料化は出店者の質に問題が生じないかという懸念はあります。出店料を払ってまじめにビジネスをする人と無料ゆえの無理なビジネスが混在する可能性があるという気がします。それは最終的にヤフーのイメージ悪化に繋がるわけで出店者は一時的にはヤフーに集まるとしてもその計画にはやはり無理がある気がいたします。

それ以上に育ちつつあるビジネスモデルそのものを不必要にかく乱し、成長に水をさす結果になりやしないでしょうか?

その点からもヤフーの今回の決断には私は大いなる疑問を感じています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年10月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。