多くの人は忘れていると思うが、東電は福島第一原発事故で巨額の債務超過になった。普通の会社ならただちに倒産するところだが、電力会社をつぶすわけには行かないので、応急的に国が東電を子会社にする変則的な経営形態をとった。
しかしこのままでは、経営はいずれ行き詰まる。そこで東電を分割してファンドに売却する案が出ているが、その最大の問題である福島第一原発の廃炉が隘路になっている(2013年10月の記事の再掲)
東電を法的整理して存続会社と清算会社に分離
たしかに福島第一の状況は危機的で「破綻処理してもうかる事業と切り離したら、希望がなくなる」というのが反対派の意見だが、これは逆だ。今のように実質的に破綻している東電を延命しているから巨大なゾンビ企業になってしまう。
解決策は東電を法的整理し、GOOD東電(存続会社)とBAD東電(清算会社)に分離するしかない。その上で廃炉事業をするBAD東電は国有化し、事故処理は国の事業として進めるべきだ。
これは私企業がもうけるための仕事ではなく、国民のために原発を安全に維持する公的な仕事して位置づける。私の知っている東電の社員も、みんな「今の生殺しの状況は耐えられない。生きている会社と死んでいる会社はわけてほしい」と言っている。
原賠法は適用できるか
大きな問題は二つある。第一は原賠法の第3条但し書きを適用して、国が賠償するかどうかだ。事故直後に東電の勝俣会長(当時)が但し書きの適用を求めたのに対して、民主党の仙谷代表代行が拒否したという。民主党政権は、東電というスケープゴートをたたくことによって政権の浮揚をはかったのだが、これが大失敗の始まりだった。
第二の失敗は、東電を生かしたまま処理しようとしたことだ。この原因も仙谷氏で、枝野官房長官などは破綻処理すべきだと主張したが、仙谷氏が反対して支援機構の枠組をつくった。
彼が反対した一つの理由は、財務省が賠償債務への財政支出に難色を示し、なるべく東電にやらせるスキームを考えたことだが、もう一つの理由はメガバンクに暗黙の債務保証をした経産省が責任を回避したことだ。
このため経産省は民主党に根回しし、「法的整理したら電力債がパーになる」とか「賠償債権が劣後する」などといって丸め込んだが、東電の社債は一般担保つきなので保全される。
このとき会社更生法だと、賠償債権の優先順位はその次になる。これが事故の当時は問題だったが、BAD東電を国有化すれば国が賠償できる。これには財務省が強く反対した。
メガバンクの債権を守るために「半国営」会社になった
経産省が守ろうとしているのは、メガバンクの債権なのだ。特に事故後の緊急融資2兆円を松永事務次官が実質的に債務保証したため、破綻させると国家賠償を求められ、へたをすると個人的に債務保証した松永事務次官は背任罪に問われる。これを隠すために株主を守り、死んだ東電に戦力を逐次投入する倒錯したスキームができてしまった。
ここで仕切り直し、まず東電が会社更生法の適用を申請して、破産管財人が裁判所に第3条但し書きを適用するかどうかの判断を求めるべきだ。班目原子力委員長は「全電源喪失は想定しなくてもよい」という国の安全基準に瑕疵があったことを国会で認めたのだから、国に責任がないとはいえない。
この場合は、1200億円以上は国の無限責任になって東電は生き返るが、これも問題があるので、東電にはできる範囲で賠償を求め、長期間かけて債務を返済することになろう。
存続会社と清算会社に分離するのは破綻処理の常識
但し書きを適用しないと裁判所が判断した場合は、東電を破綻処理するしかない。この場合BAD東電は、今まで支援機構に出資した資本金を含めて国が資本金の大部分を保有し、東電と共同出資の特殊法人にすることが妥当だ。
この国営企業は、汚染水だけでなく廃炉や賠償や除染など、すべての事故処理を担当し、国の公共事業と位置づけて戦力を一挙に投入する。デブリの摘出はやめ、「石棺」方式で迅速に処理する。
この方式については、河野太郎や野村修也なども意見が一致した。株主資本は100%減資するしかないが、銀行の債権については、ほとんどの関係者が「事故後の緊急融資は国家賠償すべきだ」と言っているので、高市首相がそういう政治決断をすれば、事故処理は一挙に前進する。
少なくとも17分野の産業政策に15年で370兆円も出す税金があったら、福島の廃炉に20兆円出し、将来の原子力開発にも投資したほうが投資効率は高いだろう。





