昨夜の朝まで生テレビは、田原さんも自画自賛したように、マスコミのタブーを破って東電の破綻処理を徹底的に論じた。野村修也、馬淵澄夫、飯田哲也、長谷川幸洋、私の意見が「東電を法的整理すべきだ」ということで一致し、おもしろいことに澤昭裕さんと田原さんは破綻処理に消極的だった。
たしかに福島第一の状況は危機的で、いろいろなミスが出るなど、現場の士気が低下している。「破綻処理してもうかる事業と切り離したら、希望がなくなる」というのが彼らの意見だが、これは逆だ。今のように実質的に破綻している東電を生きているかのようにごまかしているからゾンビみたいな会社になり、国費も470億円の裏金のような形でしか入れられない。
解決策は、東電を法的整理し、GOOD東電とBAD東電に分離するしかない。その上で、福島第一の処理をするBAD東電は基本的に国有化し、事故処理は国の事業として進めるべきだ。これは私企業がもうけるための仕事ではなく、国民のために原発を安全に維持する公的な仕事して位置づける。私の知っている東電の社員も、みんな「今の生殺しの状況は耐えられない。生きている会社と死んでいる会社はわけてほしい」と言っている。
大きな問題は二つある。第一は原賠法の第3条但し書きを適用して、国が賠償するかどうかだ。田原さんによれば、事故直後に東電の勝俣会長(当時)が但し書きの適用を求めたのに対して、民主党の仙谷代表代行が拒否したそうだ。民主党政権は、東電というスケープゴートをたたくことによって政権の浮揚をはかったのだ。これが大失敗の始まりだった。
第二の失敗は、東電を生かしたまま処理しようとしたことだ。この原因も仙谷氏で、枝野官房長官などは破綻処理すべきだと主張したが、仙谷氏が反対して今の「支援機構」の枠組をつくった。彼が反対した一つの理由は、財務省が事故処理への財政支出に難色を示し、なるべく東電から搾り取る今のスキームを考えたことだが、もう一つの理由は経産省が責任を回避しようとしたことだ。
このため経産省は民主党に根回しし、「法的整理したら電力債がパーになる」とか「賠償債権が劣後する」などといって丸め込んだが、これは嘘である。東電の社債は一般担保つきなので保全される。賠償債権の順位はその次になるが、BAD東電を国有化すれば国が賠償するので問題ない。
経産官僚が本当に守ろうとしているのは、銀行の債権なのだ。特に事故後の緊急融資2兆円を松永事務次官が実質的に債務保証したため、破綻させると国家賠償を求められ、へたをすると個人的に債務保証した松永氏は背任罪に問われる。これを隠すために株主を守り、死んだ東電を生きていることにして戦力を逐次投入する倒錯したスキームができてしまった。
だからここで仕切り直し、まず東電が会社更生法の適用を申請して、破産管財人が裁判所に第3条但し書きを適用するかどうかの判断を求めるべきだ。班目原子力委員長は「全電源喪失は想定しなくてもよい」という国の安全基準に瑕疵があったことを国会で認めたのだから、国に責任がないとはいえないだろう。この場合は、1200億円以上は国の無限責任になって東電は生き返るが、これも問題があるので、東電にはできる範囲で賠償を求めていくことになろう。
但し書きを適用しないと裁判所が判断した場合は、東電を破綻処理するしかない。この場合BAD東電は、今まで支援機構に出資した1兆円を含めて国が資本金の大部分を保有し、東電と共同出資の特殊法人にすることが妥当だ。この国営企業は、汚染水だけでなく廃炉や賠償や除染など、すべての事故処理を担当し、国の公共事業と位置づけて戦力を一挙に投入し、迅速に処理する。
河野太郎氏から私に至るまで意見が一致しているということは、関係者の8割は同じ意見だと考えていいだろう。株主資本は100%減資するしかないが、銀行の債権については、ほとんどの関係者が「事故後の緊急融資は国家賠償すべきだ」と言っているので、安倍首相がそういう政治決断をすれば、事故処理は一挙に前進する。