【再掲】マグロは汚染水より危ない

池田 信夫

「汚染水」の問題については、アゴラは一貫して「科学的根拠のない貯水はやめて薄めて流すべきだ」と主張してきました。これは2013年10月26日の記事の再掲ですが、ここで指摘した問題のうち、トリチウムだけが残っています。

田原さんが「タブーがない」と誇る朝生だが、昨夜の番組は録画だったので、私の発言の一部が編集された。「プルトニウムの経口毒性は水銀や砒素などより低い」と話したのに続いて「いちばん危ないのはマグロだ。水銀濃度は最大10ppmぐらいで、水質基準を超えている」という話がカットされたが、これは日本生協連のホームページにも図示されている。


マグロやクジラなどの大型魚の水銀濃度は、水質基準5ppmを超えている。これは食物連鎖で魚の摂取した水銀が生物濃縮されるためで、厚生労働省は妊婦がマグロを食べるのは週1回以下にするよう勧告している。水銀が胎児に濃縮されるからだ。

他方、福島第一原発の湾内のトリチウムの濃度は10Bq/L以下で、これは飲料水の水質基準を下回る。この水を飲む人はいないから、人体に影響が及ぶのは魚に蓄積した場合だが、トリチウムは生物濃縮されないので、魚介類を介して放射性物質が人体に及ぼす影響は無視できる。

だから小泉元首相の「10万年後の安全に責任がもてない」という話は錯覚なのだ。核廃棄物の汚染で問題なのは、地震などで廃棄物の容器が壊れてプルトニウムが地下水に混入し、魚などを介して人体に入る経口毒性だが、これはゼロといってもよい。プルトニウムは水に溶けず、体内に吸収もされないので、有機水銀のように生物濃縮されることはありえないからだ。

これから470億円かけてつくられる「遮水壁」の有効性も疑わしい。もちろん何かのきっかけで放射性物質が大量に海中に出る可能性は否定できないが、そのリスクは上にのべたようにきわめて低い。この予算は、もっと有益な用途に使ったほうがいい。

しかしそれはできない。なぜなら今回の予備費は、オリンピック対策として緊急に計上されたもので、使途が「研究開発」に限定されているからだ。土木工事に国費を投入するためには国会の審議が必要だが、いまだに政府は「事故処理は東電が全責任を負う」という建て前を変えていないので、今後も必要になる汚染水対策には、この470億円は使えない。

他方で、安倍首相はオリンピックの招致演説で「政府一丸となって解決にあたる」と表明した。これまでのように東電まかせではなく、政府が責任をもつということだ。したがって事故処理のスキームを変え、東電を破綻処理して分社化することは避けられない。