また、民主党から追及された。「どうして首相は公邸に住まないのか」という質問だ。それに対し、菅義偉官房長官は11月5日の衆院国家安全保障特別委員会で「安倍首相はいざというときオートバイの乗って公邸に飛んでくる。私邸から公邸まで15分間ぐらいだ」と説明したという。その記事を読んでいると、昔テレビで観た「月光仮面」を思い出した。敵陣に向かってオートバイを走る安倍晋三首相の姿が「月光仮面」と重なって脳裏に浮かんできた。
野田佳彦前首相は自身のブログ「かわら版」の中で公邸に住まない安倍首相の危機管理を批判している。前首相は日本版NSC法案に言及しながら、「安倍総理が安全保障や危機管理に強い問題意識をもっていることはよく判ります。しかし、総理には敢えて苦言を呈したいと思います。制度改正の前に、総理は公邸に住むべきだということです」と注文を付け、ブログの最後の部分で「公邸にいまだ住まない理由がさっぱりわかりません。まさか、幽霊が怖いからではないでしょう。ちなみに、私は総理在任中公邸で暮らしましたが、私も家族も幽霊は見ていません」と書き、安倍首相をやんわりと冷笑している。
当方はこのコラム欄で「公邸の幽霊は人を選ぶ」(2013年5月26日参考)という記事の中でで安倍首相の苦悩を描いた。安倍首相は8月30日、首相就任後初めて公邸に宿泊しているが、正式に公邸に引越しする考えはまだないという。そこで野党側は首相の危機管理を追及したわけだ。
幽霊の話となると俄然、筆が走る当方は今回、幽霊の気質について少し説明したい。当方は幽霊の弁護士ではないが、生身の人間と同じように、幽霊には幽霊の悩みがあるということを再度、説明したい。公邸に漂泊している幽霊は確かに、野田前首相が証言しているように、野田前首相時代には現れなかった。東日本大震災で危機管理が問われた管直人元首相の時も姿を潜めていた。
元・前首相は、自分たちがそうだったから、「幽霊が出るから」という理由で公邸引越しを拒む安倍首相は一国の首相としては無責任な振る舞い、と受け取るのだろうが、そこに間違いが潜んでいる。幽霊にも幽霊の事情があるのだ。安倍首相には現れるが、野田前首相の前には現れにくい、というか、まったく相対できない、といった事情だ。卑近な例だが、野球が好きだった幽霊が野球に全く関心がない地上の人間に現れることは非常に難しい。逆に、酒が大好きだった幽霊は酒を愛する地上人に親密感を抱く、といった具合だ。
「公邸を住処とする幽霊は誰か」を考える時、幽霊と公邸の歴史的関係を慎重に調査する必要がある。幽霊は亡くなった人間だが、地上生活で充足できなかった願い、思いが強すぎて、霊界に移動できない存在だ。だから、地上生活時代に縁があった場所、人の傍に住み着く。そして、地上生活時代の自分に似た世界観を持つ人間や血縁関係者が身近にくれば嬉しくなって現れる。
だから、幽霊が安倍首相には現れ、元・前首相には現れない、という現象は至極当然の現象だ。参考までに付け加えると、誰にも現れる幽霊も存在する。その場合、その幽霊は場所、地域と密接に繋がっている。交通事故が頻繁に起きる街角、自殺の名所といった地域・場所にはこの種の幽霊が屯している。自分が事故を犯した時のような状況下にある人間が来るのを待っているのだ。
安倍首相の前に現れる幽霊が誰かを特定する作業は当人と歴史家に委ねたい。ここで強調した点は、「自分がそうだったから、君もそうだ」といった野田前首相の論理は危険であり、間違いを犯すことにもなるということだ。
月光仮面のように東京都内をオートバイで走る安倍首相の姿は、幽霊という存在を理解しない限り、少々滑稽なシーンかもしれないが、当人の首相にとって、幽霊のアイデンティティが分かるまでは、ひょっとしたら最善の危機管理かもしれないのだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。