米10月雇用統計は驚きの強さ、米株は前日分の下落をほぼ相殺 --- 安田 佐和子

アゴラ

米10月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比20.4万人増となり、市場予想の12.0万人増より格段に強い結果となりました。前月の16.3万人増(14.8万人増から上方修正)を超え、修正された8月に次ぐ20万人乗せです。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が失業率が低下する増加ペースの「15万人増」を超え、2010年10月から続く増加トレンドも、維持。過去2ヵ月分の修正も、6.0万人増に及びました。ベアな私が真っ青になるほど、文句なしに強い結果です。

NFPの内訳をみると、民間就労者数が21.2万人増となり市場予想の12.5万人増を大きく上回っています。主な業種別は、以下の通り。

▽サービス部門=7.7万人増>前月は12.3万人増

小売→4.4万人増>前月は2.2万人増

娯楽・宿泊→5.3万人増>前月の1.3万人増

金融→0.7万人増>前月は0.1万人減

教育→2.3万人増>前月は0.6万人増

ビジネス・サービス→4.4万人増>前月は3.2万人増

(ただし派遣は0.3万人増と前月の1.1万人増を下回る)

サービスは、こちらにあるようにホリデー商戦の臨時雇用がかさ上げしたのでしょう。雇用の先行指標である派遣が鈍化した点は、気掛かりです。

▽財生産業=3.5万人増>前月は2.7万人増

製造業→1.9万人増>前月の0.4万人増

建設→1.1万人増<前月の1.8万人増

ISM製造業景況指数が2011年4月以来の高水準をたどるように、製造業の雇用は実に8ヵ月ぶり高水準でした。建設は伸びが鈍化したとはいえ5ヵ月連続で増加しており、住宅指標の鈍化を振り返っても上等な数字でしょう。

▽政府=0.8万人減と3ヵ月ぶりに減少。連邦政府が1.2万人減と6ヵ月連続でマイナスを示し、強制歳出削減に伴う減少トレンドをたどる。

失業率は、市場予想通り7.3%。2008年11月以来の7%割れを視野に入れた9月の7.2%を上回りました。失業者数が前月比1.7万人増と4ヵ月ぶりに増加したほか、就業者数にいたっては73.5万人減と急減。ただし、労働参加率が62.8%と前月の63.2%から弱まり1978年以来の更新したため失業率は小幅上昇にとどまっています。平均失業期間は、前月の36.9日から36.1日へ短縮した。一方で、経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされるなど不完全雇用を含む失業率は前月の13.6%から13.8%へ上昇しました。

結果を受けた、エコノミストの分析はといいますと。

バークレイズのマイケル・ギャピン米エコノミスト

「NFPは3ヵ月平均で20.2万件と高水準へ切り返しており、強い内容だった。ただし、政府機関の閉鎖に伴い一時帰休を余儀なくされた連邦政府職員により、統計のゆがみが生じた可能性がある。連邦政府で一時帰休を余儀なくされた職員は給与システムに登録されたままなのでNFPに影響がなかった半面、失業率を扱う家計調査では訪問する調査員が一時帰休中の連邦職員の回答次第で失業中とみなすためだ。

米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策見通しとして、2014年3月の量的緩和(QE)縮小の見通しを維持する。しかし今回のNFPにおける3ヵ月平均の増加に加え米新規失業保険申請件数が政府機関の再開後に正常化しており、Fedが注目する1)安定的な経済成長、2)労働市場の改善、3)インフレ──の一角を成す雇用が強さをみせるなか12月の縮小開始の可能性も否定できない。」

米連邦政府の一時帰休は、大いに労働市場を混乱させたことでしょう。

ギャピン氏の見解を踏まえると、NFPの政府部門には政府機関の閉鎖が反映されていないというワケ。つまり米政府機関の閉鎖にさらされながら、成長の足取りを確認したともいえます。本日は米10年債利回りは2.75%を超え9月20日以来の高水準を示すなかでも、ダウ平均が7日分の下落をほぼ相殺するはずですよ。

本日の相場状況をみると、強気派がカムバックした様子がうかがえます。ガソリン価格が2012年12月以来の水準へ下落しており、ホリデー商戦にもプラスに作用しそうですしね。

ただし10月はホリデー商戦マジックが働く点に注意したい。10月のNFPを振り返ると、

2013年10月→20.4万人増>9月は16.3万人増

2012年10月→16.0万人増>9月は13.8万人増

2011年10月→16.6万人増<9月は22.5万人増(8月に債務上限引き上げ交渉でこう着した反動か)

2010年10月→22.8万人増>4.3万人減

2009年10月→17.0万人減>23.3万人減

過去5年間でみると、少なくとも9月より強い数字となる傾向が高いんです。今回は米連邦政府機関の閉鎖で職員の統計にひずみが発生した可能性も濃厚。アトランタ連銀のロックハート総裁が発言したように、FOMCは12月にテーパリングを協議するんでしょう。一方で労働参加率は相変わらず低く不完全失業率が上昇してますし、12月のQE縮小開始のハードルは、個人的にまだ高い気がします。いくら良い結果だったとはいえ、労働参加率が低下していなければ失業率は7.3%から7.9%へ上昇していたという試算もありますし、6ヵ月平均では17.4万人増と買い入れ縮小の地ならしを開始した5月時点の20.3万人増を下回ってましたしね。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2013年11月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。