エネルギー問題、国民感情をどうするか—アゴラシンポジウム【言論アリーナ報告】

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アゴラ研究所は、12月8日に東京で第2回アゴラシンポジウム「持続可能なエネルギー戦略を考える」を開催する。(告知記事


その出席者である東京工業大学助教の澤田哲生氏、国際環境経済研究所の理事・主席研究員である竹内純子さんを招き、11月12日にアゴラ研究所のインターネットチャンネル「言論アリーナ」で、「エネルギー問題、国民感情をどうするか」という番組を放送した。

放送では、同日に小泉純一郎元首相が日本記者クラブで行った原発をめぐる講演(日本記者クラブYouTubeチャンネル)を批判的に分析した。福島原発事故から2年8カ月が経過したのに、エネルギー・原発問題は混乱が続いている。その背景にある人々の原子力への不信を、どのように考えるべきかを議論した。

小泉講演への疑問1–核廃棄物問題は解決不可能か?

小泉氏の講演は「脱原発を即座に行え」というもの。小泉氏はフィンランドのオンカロで、原発でできる放射性廃棄物の最終処分場を見学したことを強調して、「核のゴミ」脱原発を早期に行うことを主張した。

これについて澤田氏は「まったく論理的ではない」と反論した。使用済核燃料などの最終処分方法は各国で考えられているが、いずれも最終的には地中処分を検討している。日本では、その地中処分に「核燃料サイクル」という取り組みを加えたものだ。

それは再処理して核燃料の容積を減らし、プルトニウムを再利用する。それでも残る放射性物質をガラス固化体にして特殊な容器に入れて、地下数百メートルの地下に置き、人間の手から離そうとするものだ。日本では岐阜県瑞浪市、北海道幌延町で岩盤に穴を堀り、地中処分の影響について実証実験を行っている。放射性物質の大半は100年経過すれば無害化されるが、プルトニウムなどは無害化まで10万年程度かかるとされる。

現在の日本では、使用済核燃料は分散して各地の原発に置かれている。それは1万7000トンもある。「小泉氏はそれに言及していない。原発ゼロにしてもその問題は解決しない」(池田氏)。また「地上に置くよりも、一カ所に集めて地下に置く方が、リスクは低くなる」(澤田氏)という批判があった。

最終処分地の決定が難航していることは事実だ。しかし使用済核燃料の手段は見えているが、政治がこの問題に真剣に取り組まない面がある。「小泉さんのように時計の針を巻き戻すことを言うと、ただの混乱しか生まない」と澤田氏は指摘した。

さらに竹内さんは、今ある原発の停止によって電力の不足と電力料金の上昇が起こっているという現実の問題を直視してほしいとした。さらに、「政治の仕事は方針を決めること。そうすれば優れた人が方法を考えてくれる」という小泉氏の発言については、全員が「無責任」と批判した。

小泉講演への疑問2–技術革新はありえるのか?

また小泉氏は再生可能エネルギーについて、大きな期待を寄せた。これについて池田氏は次のように述べた。「再エネはいくら増えても、原発の発電量をおぎなえない。2年半前に繰り返され、振興策をしても原発の代わりにこの1年でならなかった。その現実を小泉氏は見るべきだ」。

澤田氏は各電源を使うことによる人間の健康への影響が、各国で検証されていると紹介した。どの研究も、その悪影響の程度の順番は、石炭、石油、天然ガス、原発、風力となる。化石燃料は採掘や、大気汚染での問題があり太陽光は工場の製造過程で、有毒物質を使うリスクがある。「再エネルギーを増やせば、その不安定性を克服するために、火力を増やす必要がある」という。

再エネの弱点を補うために、小泉氏は蓄電技術の革新に期待する。蓄電池は世界各国で、投資と研究が行われている。EV(電気自動車)がそれを必要とするために加速した。しかし池田氏によれば、現時点でのコストは、電力に換算すると、1kW当たり約200ドル(2万円)にもなる。火力発電のコストは10円以下、さらに原発がそれより安いことを考えると、「このコストの差を埋めることは大変難しい」と予想した。

日本の問題、「議論で原子力に関心が向きすぎ」

問題の多い小泉氏の講演だが、メディアが大きく取り上げ、そして影響力も大きい。朝日新聞の11月12日の世論調査(記事)によると、最近の小泉氏の脱原発論について、「支持する」が60%、「支持しない」25%、「その他・答えない」が15%となった。

エネルギーをめぐる議論で、日本では原発に関心が向きすぎであり、しかも「賛成か、反対か」という単純な議論ばかりが行われる。これも放送で話題となった。

原子力には、問題も多い半面、メリットもある。そうしたことが報道されず、議論もされない。「高密度のエネルギーを使う要求を人類は止められないし、そういうエネルギーを使いこなせる集団が勝ち残ってきた。原発が世界からなくなる未来は、今のところ考えられない。日本が原発をやめるなら中国と韓国が進出するだけ」と、澤田氏は述べた。

原子力は、温暖化対策とエネルギー不足の一手段であることが、世界で注目を集めている理由の一つだ。竹内さんは日本の温暖化政策が混乱していることを指摘した。政府方針は放送後15日に正式発表されたが、「2020年の温室効果ガス削減目標は05年比3.8%減」とした。しかし、その内実は原発稼働ゼロであることから、あいまいさを残して暫定的な目標になっている。「具体策が立てられない」(竹内さん)という。

メディア、専門家、世論、政治家の問題の集大成

なぜこのような議論の混乱が起きているのか。理由は複合的だ

「メディアが成熟しないことが一因」であると、池田氏は指摘した。朝日新聞、東京中日新聞、また東京のテレビなどは、反原発という社論を決めると、多様な意見を掲載しない。また原子力事故の被災者を「聖なる存在」「犠牲者」であるかのようにして、一部の人の「反原発」や「リスクゼロ」の意見を絶対視する。そして、読者に喜ばれようと、報道は過激になる。

「小泉さんの話は、技術を語り、議論の対象にできる。しかし『命より金を取るのか』とか『原発は悪だ』などの感情論ばかりが報道され、そして同調する人がいる。こうした思考停止の議論は何も生まない」と、池田氏は述べた。

原発事故後に沈黙して正確な情報を告知しなかった、原子力の専門家の責任も重い。「2年半隠れていたが、もぞもぞと『原子力ムラ』の中で動き出した。そういう人に『今こそあなた方が何十年もやってきたことを、世間の人に聞いてもらえるチャンスですよ。3・11前は誰も関心を持たなかった』と話しているのに、皆、批判を怖がって出てこない」という。ただし、これには「御用学者」などと、感情的に原子力や医療関係者を攻撃する一部の人の責任もあるという。

これまでの広報活動も、まったく機能しなくなった。福島原発事故まで、政府、電力会社、原子力関係者は、原子力の必要性や安全性をPRしてきた。ところが、原発事故の後で誰もそうした論点を振り返らなかった。なぜか。竹内さんは東京電力の社員だった。「広報は一生懸命やっているのだが、コミュニケーション、つまり双方向の情報のやり取りではなく、説得になってしまった。それが信頼を築けなかった理由かもしれない」と、竹内さんは分析した。

エネルギーをめぐる国民的な議論を深めるには、今までの方法が役立たない。「今後どうすればいいのか、手法が見えない」という点で出席者は一致した。しかし「正確な情報を共有し、できる限り感情に流れず、理性的に合意を積み重ねること」(竹内さん)という進むべき方向は明らかだ。

エネルギー政策では「3つのE」を考えることが基本といわれる。「エネルギー・セキュリティー(安全・安全保障)」「エコロジー(環境)」「エコノミー(経済性)」の、Eから始まる3論点だ。「今は『放射能からの安全』に関心が向きがちだが、生活や安定供給などの『安全』も含むはず。さまざまな視点から問題を、考え、議論を積み重ねることは必要ではないか」と竹内さんは述べた。

番組の最後に「小泉発言を支持しますか」と、ニコ生視聴者向けにアンケートを行った。すると「支持する」が35・5%、「支持しない」が64・5%となり、朝日新聞世論調査と真逆になった。もちろん、質問母集団の違いが現れた形だが、小泉氏への意見は決して賛美一辺倒ではない。

池田氏は最後にまとめた。「12月8日のシンポジウムでは、混乱する議論を整理し、現状を変えるささやかな一歩にしたい。冷静な議論を積み重ねることで、適切なエネルギーの未来の構築ができることを期待している」。

アゴラシンポジウムへの多くの方の参加、また放送の視聴をぜひご検討いただきたい。