「オバマケア」の強烈な潜在的インパクト --- 岡本 裕明

アゴラ

バラク・オバマという人がこれだけ苦しむとは誰が想像したでしょうか? 大統領に就任した時にはあれだけ世界が騒ぎ、アメリカが盛り上がり、ノーベル賞までもらったのに最近の新聞に掲載される大統領の写真はどれもさえない悩み多き政治家というものが並びます。


数日前、何気でアメリカのテレビ番組を見ていたところ、パロディ番組で面白おかしく揶揄されているのはオバマ大統領とカナダ、トロント市長のロブ・フォード(でっぷりしたフォード市長は薬物使用、飲酒過多、飲酒運転疑惑、セクハラ疑惑などにもかかわらず市長辞任を断固拒否するのみならず、支持率が上昇しているという奇妙な状態にあり、今、世界でもっともホットな人物です)。ある意味、オバマ大統領がロブ・フォード市長と並列になっているのもどうかとは思いますが、世界のメディアも必ずしもオバマ擁護とは言えません。オバマケアの行方もニュースにならない日はないといった状態になっています。

オバマケアはもともと先進国で唯一、国民皆保険制度がないアメリカにおいてオバマ大統領がその実現を公約として掲げ、10月1日に実質的にスタートしたものです。ところがそのウェブサイトの不具合も重なり、それまでの大統領への不満のトリガーとなり、オバマ大統領の支持率は30%台に大幅低下となってしまったのです。ではアメリカは国民皆保険を必要としていないのでしょうか?

アメリカは自助の国とされています。つまり、自分のことは自分でやる、ということでしょうか? 保険については企業勤務者は会社負担を得ながら保険に入ることになるのですが、企業勤務者からすれば保険が欲しくて会社に勤めると言われてもおかしくありません。カナダのラジオでは連日、「アメリカでは医療費が高いので旅行などの際には十分なプロテクションを」と宣伝が流れているのですが、無保険で大病すれば破産するというのはまんざら嘘でもないのです。事実、アメリカの破産申告者の理由はビジネスや住宅ローンと並び医療費が払えない理由が上位となっているのです。つまり、無保険とは自虐行為であり、保険のない車を運転するようなものなのです。だから必死で保険、保険と考えるのでしょう。

ですが、これは逆説的にいえば誰でも保険が安く手に入るのなら無理して雇用されなくてもよい、という捉え方も出来なくはありません。

カナダは安い保険料で全額カバーされる国の一つであります。バンクーバーのあるBC州の場合、一人ものなら保険料は月66ドル50セント、3人以上の家族なら何人でも133ドルなのです。しかも出産だろうが、入院だろうが手術だろうが全部無料です。その上、多くのカナダの企業はExtended Medicalと称する民間の上乗せ保険の付保を従業員に提供しています。これがあれば歯科や薬代(プランにより負担率は違います)もかなり面倒見てくれるのです。これが多くのカナダ人があくせくしなくなる理由のひとつとは言われ続けています。例えば、早期リタイアしても病気の面倒は大丈夫ということになるのです。とすれば自助のアメリカとすればオバマケアはアメリカの位置づけを変えるほどのインパクトがあるとしても過言ではない気がします。

もう一つのカナダの面白い現象としてよい医者はアメリカに働きに行く、とされているのですが、理由はもちろん、稼げるからであります。

とはいえ、個人的にはオバマケアは必要だと思います。成熟した国であれば国民皆保険のシステムは導入すべきでしょう。細かい運用やシステムの見直しは必要と思いますが、オバマ大統領はここはうまくしのいでもらいたいところです。自助が出来るよきアメリカの時代からもはや、資本主義の搾取の時代にいるわけですから無保険者をなくし、国民に一定の社会保障を提供するのは国家としての義務であります。

ちなみに社会保障システムが遅れているもう一つの大国、中国は自助のためにひたすら貯蓄に励んでいます。特に過半数を占める非都市居住者にそれがいえましょう。それが中国の消費性向の低迷の一つの原因であります。日本も医療費は決して安くありません。案外堪えるのは薬代ではないかと思います。とすれば日本は保険制度があっても保険を使った診断、治療を頻繁にする結果、医療費がかさみ消費が盛り上がらないという奇妙な論理も成り立たないわけではないのかもしれませんね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。