Amazonは、巨大恐竜のようにひそやかに絶滅する --- Nick Sakai

アゴラ

Appleのスティーブ・ジョブズがこの世を去った今、Amazon.com(以下、アマゾン)のCEO、ジェフ・ベゾス氏が新たな時代の寵児として注目を集めています。今年の8月に個人で米新聞大手ワシントン・ポスト紙の新聞事業買収は、彼のカリスマ性を高める心憎い演出でした。アマゾンは、本からスタートしましたが、生活用品や工具、食品などほぼすべての商材やクラウドサービスを扱う世界一のオンラインストアにまで急成長を遂げています。


まず、ポータルを完成し、世界の利用者にクレジットカードの登録をさせ、物流システムを構築し、インターネット上に小売王国を作り上げました。ネット業界での追随は困難です。一方、「ショールーミング(showrooming)」という、小売店で確認した商品をその場では買わず、ネット通販によって店頭より安い価格で購入することが一種の流行となり、リアル店舗の脅威となっています。しかも、稼いだ利益を再投資、領域を拡大し続けています。世界中のメデイアは氏の動きを概ね好意的に取り上げています。

しかしです。どんな人間も完璧ではないし、どんなビジネスにも死角はあります。特に、生き馬の目を抜くような激しい競争と技術革新を繰り返すIT業界においては。私は、世間の見方の逆を張りたいと思います。アマゾンは早晩、少なくともアジアにおいては凋落すると予想します。詩的に言えば、アジアの密林の中で、巨大恐竜のようにひそやかに絶滅していくでしょう。その理由をご説明します。

まず、下図のように日本の小売りビジネスの歴史を簡単に振り返りましょう。

日本の小売りは家族経営を主体とする個人商店が主役だったのですが、1957年に主婦の友ダイエーが米国流のチェーンストアを日本に本格導入、価格破壊で「流通革命」を起こします。その後、イトーヨーカドーやイオンなどのスーパーマーケットが小売業界を牽引します。ところが、ヨドバシカメラなど特定の商材を扱う専門量販店が出現すると、勝者のいない消耗戦に陥ります。街の商店街はシャッター通りと化していきました。盛者必衰の理のとおり、大規模店もネット販売に喰われ始めます。特にネットと競合するヤマダ電機やビックカメラや書店も厳しい状況です。

そもそもアマゾンは何故強いのでしょうか。私は3つの理由があると思います。昔の牛丼屋のCMに准えれば、「早い・安い・便利」です。

まず、「早い」こと。ITを駆使した在庫管理と宅配業者との連携は、注文をした翌日に配達を可能にします。場所によっては当日配達さえも。

次に、「安い」こと。物理的な店舗を置く必要がないことや、自前の巨大な物流倉庫を持つことで、流通マージンを徹底的に削減できます。

最後に、「便利」。消費者はわざわざ店に出向かなくてもパソコンやスマートホンから注文ができます。今やありとあらゆるものを販売できるように、貪欲に業容を拡大中です。一つのサイトでクリックひとつで買い物ができる、これは便利です。

では、アマゾンに死角がないのでしょうか。答えはNOです。私は、特に日本市場において彼らは多大なリスクを抱えていると思います。

まず、アマゾンでも売れないものがあります。

第一に、生鮮品を中心とした食料品や料理です。野菜や果物等は、日々刻々と価格が変わります。新鮮さが命なので、産地から直接届ける必要があります。地産地消なので、アマゾンの得意とする全国一律規格に馴染みません。米国では、肉でも野菜でもデザートでも丸ごと冷凍したパッケージを電子レンジでチンして食べる大雑把なお国柄ですから対応可能なのですが、繊細な日本人消費者が口に入れる食品は、ITプラットフォームで一律管理が難しいのです。

第二に、無形サービスです。例えば、電気やガス料金や消費者ローンの返済。日本はクレジットカード文化が米国ほど浸透していないので、規制産業が扱う無形サービスにはどうしても、現金の出し入れが必要です。本当はサービスの方がインターネット決済と親和性が高いので、アマゾンで電気・ガス料金やローン返済などができるのが理想ですが、規制を打破するのはかなり困難です。加えて、実物商品でもスマート化の進展で、売り切りスタイルから、メンテナンスやアフターサービス重視の商材が増加しています。例えば、家庭用太陽光発電システムや燃料電池。こうした、ケアが必要なものはヤマダ電機などが起死回生の分野として力を入れています。

第三に、公共サービスです。例えば、戸籍謄本の取り寄せとか運転免許の更新とか、どうしても本人確認などの理由で出頭しなければいけない分野です。

実は、こうした生鮮食品や食事、無形物、公共サービスを一つのプラットフォームで一体的に販売できるチャンネルが日本では出来上がりつつあります。セブンイレブンやローソンなどのコンビニエンスストアです。

彼らは、アマゾンとは真逆のアプローチでサプライチェーンの効率化をはかりつつ、最終需要家とのウエットなインターフェースを残している。街のホットステーションというキャッチフレーズがあるように、コンビニエンスストアは日本式のサービス品質「おもてなしの心」で、効率的で便利なサービス・販売ができる業態です。私は、アマゾンに対抗する日本の最終兵器はコンビニを基盤にしたEコマース・宅配の融合だと思っています。

翻って、アマゾンは本当にすべての商品で、「早い」「安い」「便利」を極められるかというとかなり怪しいです。まず、「早い」ですが、ネット通販にしては「当日配達」は画期的ですが、例えば急病で薬が欲しい時、小腹がすいて食材が欲しい時ネットでクリックして買い物をする人はいません。でも近くのコンビニまたは流通拠点から配送することは可能です。

次に、「安い」です。確かに、パソコンなどの電気製品はリアル店舗よりも優位ですが、アマゾンが圧倒的に安い訳ではない。事実、価格コムなどでは、アマゾンより安い実売店舗は一杯あります。最新のマックエアーは店舗では10万円、アマゾンでは9万円ですが、最安値をつける中小業者が8万円で売っていたりします。何故そこまで安くできるのかは謎ですが、恐らく、流通業界が不透明で、ある種の特別で訳ありのチャネルがあるのでしょう。こういう商習慣はドライなヤンキーには入りにくい。まあひとつの非関税障壁ではあります。

最後に「便利」かと言われれば、確かにインターネットで注文できるのは便利ですが、中には対面サービスをよしとする人もいるでしょうし、インターネットですべて完結してしまうことをよしとしない、ウエットな人間関係を求める風潮もあります。例えば、宅配業者が、近所の老人の見守り役となったり。

アマゾンは、恐らく米国ではほぼ完璧なモデルです。人口密度が低くて、モータリゼーションが進み、ドライで、徹底的な効率を良しとする社会・文化の土壌があるからです。しかし、コミュニテイでの濃密な人間関係や、規制の存続を良しとするウエットな日本では、米国で廃れた、モールやコンビニが流通プラットフォームとして残り、そこに宅配やネット販売を加えていくモデルのほうがなじむと思うのです。

過去を振り返っても、外資流通業にとって、日本市場は鬼門でした。一時フランスのカルフールが参入しましたが数年で撤退しました。IKEAや西友を買収したWAL MARTも必ずしも成功していません。日本独特の土壌と彼らのビジネススタイルの間に衝突が起きているように見受けられます。

インターネットという新機軸で勝負するアマゾンが日本市場を合理性と効率性だけでどの程度席巻できるのか、私はとても懐疑的です。

一方、アジアに目を転じれば、日本のきめの細かい管理やサービス品質を売りとしたコンビニやサービスインフラが好調です。中国では、日系コンビニでおでんを買って、戸外で恋人や友達と食べるのが若者の流行だということです。

従って日本以外のアジアでも、ドライなアマゾンよりもウェットな日本式のほうが受けるのではないかと思うのです。恐らく、賢明なイオンやIYグループ、ローソンなどのマネージメントは、コンビニをプラットフォームとしてネットと宅配の融合に向けて、準備を進めているのではないかと勝手に思うのです。

小売り事業の本質は「おもてなし」ですから。少なくともアジアでは。皆さんはどう思われますか。

Nick Sakai
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NPO法人リージョナル・タスクフォース、代表理事
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