アゴラ読書塾のテキストにするファーガソンの『劣化国家』は、世界中で政治家とロビイストが国家を食いつぶしていると指摘したが、日本はそのトップランナーである。
沖縄県の仲井真知事は、米軍普天間基地の辺野古への移転を承認する見通しだ。これに先立って、政府は来年度から2021年度まで毎年3000億円以上の「沖縄振興予算」を出すことを決めた。仲井間知事は「有史以来の予算だ。いい正月になる」と喜んでいる。それはそうだろう。8年間で2兆4000億円以上、県民一人あたり170万円という、まさに「有史以来」のつかみ金だ。
この問題は1996年、橋本首相のとき辺野古移転で実質的な日米合意ができていたのに、地元が反対してこじれた。その後いろいろな案が出ては消え、2010年に鳩山首相が「最低でも県外」と言ったことで白紙に戻ってしまった。一時は辺野古は絶望とみられていたが、仲井真氏はぎりぎりまで値段をつり上げたわけだ。
金を出す安倍首相も、別に自分の財布から出すわけではない。彼らはともに、納税者を食い物にするフリーライダーである。ケビン・メア氏も指摘するように、17年前に決まっていた移転問題をここまで長引かせたのは、基地を食い物にする沖縄と本土の政治家である。こういう醜悪な構造が見えては困るので、地元は「沖縄の心」とか「集団自決」などでごまかし、大江健三郎氏を初めとする「反基地」の左翼が、彼らの別働隊として活躍した。
そこで政治家を動かしているのは「主権者」たる国民ではなく、一部の地域や業界のロビイストである。政治家は、彼らの利益のために金を巻き上げるエージェントだ。巨額の利益が一部に分配されるが、そのコストは納税者が薄く広く負担する。国民にとっても2兆4000億円の負担は一人あたり2万円程度だから、それを阻止するコストに見合わない。
こういう構造の原因は、ファーガソンもいうように1億人以上の国民の意思を集計する民主政治の欠陥にあるので、主権国家の深いポケットがある限り、是正することは不可能だ。政府債務は将来世代が負担するので、有権者の過半数を占める団塊の世代以上にとっても問題ない。新聞購読者の過半数も60代以上だから、彼らが沖縄を美化するのも合理的だ。
ジンガレスはこういう現象を「世界がイタリア化している」と言ったが、政府債務の大きさからいうと「世界が日本化している」といったほうがいいだろう。こうなったら、日本が最初に「ハードランディング」して反面教師になることが唯一できる世界への貢献かもしれない。