南スーダンで5.56ミリ弾が不足していた理由

アゴラ編集部


スーダンはもともと一つでした。それが長期間の内戦を経て2011年に南北に分かれ、南スーダンが分離独立。しかし、その後も石油利権をめぐって混乱が続き、今ではキール大統領派とマシャル(Machar)元副大統領派との抗争が一段と激しさを増しています。この反目の背景には、アフリカ諸国に通底する部族間の対立がある、と言われています。

南スーダン建国後、国連はPKO(平和維持活動)としてUNMISS(南スーダン派遣団)を結成し、同国で活動を開始。このPKOには、各国から軍隊や警察、治安維持関係者、医療関係者など約7500名(軍事要員約6700人、警察要員670人)が参加。日本も自衛隊が避難民への医療活動や道路建設、給水支援などのために活動しています。


しかし、南スーダン情勢はすでに、治安が悪化している、というような状況ではありません。12月15日に前副大統領派によるクーデター未遂事件が起きるなど、いよいよ事態が深刻化。21日には米軍のオスプレイが攻撃され、4名が負傷。反政府勢力は、この日、油田地帯を制圧したらしい。また、このリポートによれば、12月19日には反政府勢力により43名のインド軍PKO部隊が攻撃され、要員2名が殺害、1名が負傷したようです。インドPKO部隊では、2013年4月にも兵士ら12名のインド人が死亡しています。

政府軍と反政府軍の戦力は拮抗し、支配地域が入り乱れ、各国のPKO部隊も活動する地域によって反政府軍の勢力が迫り、危険な状態になりつつある。朝鮮日報の記事によると、日本の自衛隊と同様、道路建設や医療支援が目的で現地でPKO活動をしている韓国軍の拠点は、すでに反政府勢力の支配下に含まれているそうです。12月25日には、韓国軍のPKO部隊近くで近距離射撃のための迫撃砲弾が着弾し、政府軍と反政府軍の衝突が激化しているらしい。

韓国軍の編成は医療部隊や工兵部隊が中心で、重武装をしているわけではありません。韓国PKO部隊では、韓国軍のK2小銃弾が足りなくなるおそれがあり、12月23日にUNMISS経由で自衛隊PKO部隊に小銃弾1万発の支援を要請しました。K2小銃弾は、陸自使用89式小銃の5.56ミリ弾と互換製があり、UNMISSに参加している各国PKO部隊の中から自衛隊へ補充要請がきたらしい。小銃弾は12月23日にすでに提供済みだそうです。

この5.56ミリ弾(2/9インチ、5.56×45ミリNATO弾)、まず「M855」として米軍で正式採用され、現在では英国やドイツ、フランス、カナダなどNATO加盟国、そして日本や韓国、台湾、インド、イスラエル、スウェーデンなどの米国と同盟関係を結んでいる国、さらにイランなどでも広く使われています。

陸自の5.56ミリ弾については、それまでの62式小銃で使われていた7.62ミリ(0.30インチ)から89式小銃に転換される際に採用されている。5.56ミリ弾は高初速で、7.62ミリ弾より反動も小さく、また薬莢を含めた弾丸自体のサイズが小さく軽量なため、大量に携行できて銃の弾倉にもより多く装填できます。

ただ殺傷力が弱く、対人銃弾としては非力。攻撃の意志を強く持った相手に対する「マンストッピングパワー(一撃で無力化させる威力)」は低い、とされています。ちなみに先日、亡くなったカラシニコフ氏が開発したAK47は7.62ミリ弾を使っている。おそらく反政府勢力の主力小銃は、威力の強いAK47でしょう。

日本国内では今回の小銃弾の供与が、武器輸出三原則に抵触する、と大騒ぎになっています。とりあえず、物資提供を認めている1992年に成立したPKO法とそれに武器弾薬は入らないという従来からの政府見解との整合性はここでは問わない。緊急の要請ということなんだが、韓国政府はそれも否定していて、ここにも齟齬があるんだが、とりあえずそれも横に置いておきましょう。

そもそも、5.56ミリ弾を使用している軍隊が、ほとんど日本と韓国くらいしかいない、という状況こそ大問題なんじゃないんでしょうか。これがUNMISS参加国。日本以外にNATO加盟国や米国の同盟国がいます。インド軍も5.56ミリ弾を使っているはずなんだが、おそらく事態の不穏ぶりが急を告げていて断った、と推測されます。オスプレイが攻撃された、というくらいなので米軍も展開しているはず。同じく5.56ミリ弾使用ステアーAUGを装備しているオーストラリア軍は、同国政府によると20名ほどがUNMISSに参加しているようです。

おそらく、どの国の部隊も事情は同じで人数も少なく軽武装なんでしょう。準備不足もあり事態の急変も予測できなかった。マシャル前副大統領の解任後、これほど反政府勢力が伸長するとは考えなかったんでしょう。また、陸自でも7.62ミリ弾の62式小銃から89式への転換は完全には進んでいず、各国部隊でも5.56ミリ弾など各種使用銃弾が混在しているのかもしれません。

ただ、PKO活動目的の自衛隊には他国へ供与するくらい銃弾があり、韓国軍が銃弾不足していた、というのが面妖です。もっとも要請したくない相手である自衛隊へ言ってきた、というのは、よほど切羽詰まっていたとしか思えない。しかし、自衛隊は小銃弾をそんなに他国の軍隊に与えて自分のほうは大丈夫なんでしょうか。

国連安全保障理事会は住民保護のためにUNMISS増強の決議を採択し、近いうちに約6000人を増派します。反政府勢力のマシャル側は、クーデター未遂事件で拘束された仲間の釈放を条件に、政府側と交渉する用意がある、と言っているんだが、事態はすでに小銃弾でどうのこうのできる状態ではない。政府側は前提条件付きの会談を拒絶しています。

おそらくNATO加盟国も本格的に参加するでしょう。日本政府は南スーダンのPKOから自衛隊を撤退させることも検討しているようなんだが、今後は5.56ミリ弾を使用する国が少ないほどの環境は変化するはず。こうした状況下で、日本だけが撤退するのはちょっと体裁上、問題がありそうです。

UNMISSによる図は、南スーダンにおける各国のPKO部隊の展開の様子。これによると、5.56ミリ弾使用のインドPKO部隊はけっこうあちこちにいる。言っちゃ悪いが、軍事的には二流三流の国ばかりです。

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アゴラ編集部:石田 雅彦