“SMAP”になり損ねた安倍内閣

新田 哲史

菅官房長官がキムタクばりに、靖国神社に向かう安倍総理に「ちょ、待てよ」と言わなかったのだろうか。年末の本業の追い込み時期に録り溜めしていたテレビ番組を消化していて、きのうの朝方、NHKスペシャルの「証言ドキュメント 永田町・権力の興亡 そして”自民一強”に」を一週間遅れで観た時に不思議に思ったのよね。


▼絶好調だったはずの安倍総理。来年はいきなり正念場(※画像はwikipedia)

●「経済」で新境地を開拓したのに・・・
最初に放映された12月22日は靖国参拝の4日前。その時点では安倍内閣の懸案は、特定秘密保護法案成立で支持率が下がった程度。それでも各社の世論調査では5割ライン前後と、野田内閣には倍々ゲームの大差を付けていた。番組のサブタイトルに「自民一強」とあるように、死角が殆ど見当たらない状態で、長期政権も現実味を帯びつつあった。

言うまでもなく、安倍さんが第1次政権の時よりも幅広い支持を集めたのは、アベノミクスというキラーコンテンツを開発したからだ。番組では、安倍さんが経済政策の勉強会に誘われて、「国民のニーズは経済の立て直し」と気付く転機を迎えた経緯も紹介。憲法改正や安全保障、教育改革が売り物だった安倍さんにとって、「経済」は新境地の開拓だった。



●SMAP流イノベーション
安倍さんの変身ぶりを芸能界のマネジメント戦略に例えれば、ジャニーズ事務所がSMAPをマルチタレント化し、老若男女の幅広い世代にファンを獲得していった経緯にダブる。僕が子供の頃、すなわちSMAPが世に出る前のジャニーズタレントといえば、たのきんトリオや少年隊、光GENJIだった。ただ、彼らは「アイドル」というカテゴリーの中でのスターであり、支持層は若い女性層が中心。いま考えると、その売り出し方も、「イケメン」「ダンスがうまい」「ローラースケートを駆使」(光GENJI)といった自らの持ち味をプッシュするプロダクトアウト的にも思える。

一方、SMAPはマーケットイン的な歩みを見せてきた。キムタクが俳優の王道路線を歩み、中居君は歌は下手だけどバラエティ番組を明るく仕切る。草彅君が韓国語を習得して韓流ブームの一翼を担えば、吾郎ちゃんは映画評論等の文化人領域を開拓。香取君は身体能力を生かした演技、快活な人柄でアニメキャラを実演するなど器用さを持つ。彼らは「アイドル」に軸足を置きつつも、年齢を重ねるにつれ、世のエンタメビジネスのニーズに応えるべく徹底した顧客志向で活躍の領域を広げてきた。今の若い人は、SMAPが光GENJIの後継者と位置付けられていたデビュー当初、スケボーをアイテムにしていたことなんて知らないだろう。スケボーに乗ったままならSMAPは光GENJIの亜流として短命だったろう。



第1次安倍政権は、スケボーに乗るだけのSMAPだった。自主独立路線を志向した岸信介の孫であり、憲法改正を悲願とし、右派的な施策を前面にする。ただそれは、復古的保守志向のコアな支持層に受けるものの、自民党には宏池会的な保守リベラル支持者、無党派のライトな支持者もいて、今ほどの求心力は持てなかった(小泉さんの後任という事情もあるが)。これに対し、第2次政権では、経済再建というマスなアジェンダであり、国民のニーズに対する施策を打ち出して、前回よりも支持を大幅に広げた。前回「お友達」と揶揄された“チーム安倍”にエール大学の浜田宏一名誉教授ら新しい面々が参入した。SMAP的な大衆化路線である。

●なぜコア層への訴求に走るのか?
マーケティング的にみても政権運営は正解だったし、隙も少なかった。春先から参院選まで、筆者は野党候補の広報・ネット選挙スタッフとして世論分析を重ねた経験から言えば、自民党の広報戦略は実にしたたかだった。野党時代からネット上ではサポーターを地道に増やし、安倍さんがFacebookでたまに中韓にクギを刺す発言でコア支持者の喝采を集める。それでいて憲法96条先行改正論を選挙前に火を付けるかと思いきや、世論の支持が広がらないとみるや引込める。ライトな支持者には困惑や動揺を、敵には攻め手を、与えない。タカ派色が出過ぎぬよう菅官房長官が絶妙に制御し、飯島勲・内閣官房参与、世耕弘成・官房副長官という戦略広報のプロを配置した効果が大きいように見えた。

そうしたなかで、なぜ突然、原点回帰をしてしまったのか。つまり折角マス市場への訴求が好調なのに、コア層のマイナー市場に重点ターゲットを変える決断をするのか。特定秘密保護法制定までは、中国の軍拡、北朝鮮情勢対策で日米が軍事機密共有のため必要だった等の名目があるから、まだ頷ける。しかし靖国参拝をこのタイミングで、それもこの1年間のしたたかな政権運営からすると首をかしげる。中国市場で反日デモがまた起これば、輸出産業に影響が出て、それこそ経済に支障が出る。ここで参拝をしなくても、コア支持者は失望をしても離反はしない。「総理在任中の参拝」を、それも意義のある形で果たしたいなら、次の衆参ダブル選挙で勝利した後の2016年8月15日にやるとか、あるいは小泉さんのように退任間際の終戦の日に挙行する選択肢もあったのではないかと思うが・・・(それまでコア支持層をつなぎとめる宣伝施策は別途やるにしても)。

まー、そんな感じでとりあえず、来年の政界は波乱の予感がする年の瀬となりました。政治記者でもない僕があれこれ論じるのは恐縮ですが、靖国の是非はさておき、マーケティング・広報的な視点から純粋に疑問を覚えたので書いてみた次第です(一応、去年と今年は終戦記念日に靖国にお参り致しました)。

それでは良いお年を。ちゃおー(^-^ゞ

新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ