日本は「属国」である - 『転換期の日本へ』

池田 信夫
転換期の日本へ―「パックス・アメリカーナ」か「パックス・アジア」か (NHK出版新書 423)
ジョン・W・ダワー  ガバン・マコーマック
NHK出版
★★☆☆☆



渡辺利夫氏の本が歴史教科書を「右」から書き直そうという試みだとすれば、本書は「左」から書き直そうとするもので、彼らが高く評価する『戦後史の正体』に近い。日本の戦後史を日米同盟からみる着眼はよく、著者の指摘する事実はおおむね正しい。

日本は「サンフランシスコ体制」でアメリカが自由に基地を置くことを容認し、軍事的に自立できない属国であり、国際社会では一人前と認められない。今までは「パックス・アメリカーナ」に安住してきたが、中国の台頭でアメリカがいつまで日本をアジアのもっとも重要なパートナーと見てくれるかはわからない。

ここまではいいのだが、どうすればいいのかという話になると話は曖昧になる。憲法第9条の平和主義は守るべきだが、日米同盟は今のままではいけないという。「市民のネットワーク」によって「パックス・アジア」をつくるべきだという鳩山由紀夫氏のような理想が語られる。

当然、本書は安倍首相にも批判的で、彼の「積極的平和主義」は軍国主義への回帰であり、戦争の反省もしない自民党政権はアジア諸国に許されないという。うんざりするのは、著者のような歴史家でさえ「性奴隷」を糾弾することだ。朝日新聞と福島みずほの嘘が、世界の常識になってしまったのだろう。

本書のような空想的平和主義の最大の弱点は、それが日米同盟に代わる現実的な選択肢を示せないことだ。日米同盟(特に地位協定)があるかぎり日本が属国だということは事実だが、日米同盟を破棄して、今の憲法で十分な防衛力が構築できるのか。それは戦前の日英同盟の破棄のように、国際的な孤立と暴走の始まりになるのではないか。

サンフランシスコ体制で植えつけられた平和ボケのおかげで、日本では左翼も右翼も戦争にリアリティをもてない。残念ながら、今の日本がアメリカから独立することは困難で危険である。そこには空想的平和主義か明治ナショナリズムかという感情的な対立しかないからだ。