UNIDOが日中外交戦の前線? --- 長谷川 良

アゴラ

ウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)から新年最初に届いたニュースはポルトガルの脱退通達だった。同国は昨年12月、脱退を書簡で連絡した。

▲加盟国から事務局長当選の祝辞を受ける李勇氏(2013年6月24日、撮影)


UNIDOを脱退した加盟国はカナダ、米国、オーストラリア、ニュージランド、英国、オランダ、フランス、そして今回ポルトガルだ。それだけではない。「スペイン、ギリシャ、アイルランドも脱退を検討している」(UNIDO関係者)というから大変だ。

ユムケラー前事務局長とその仲間たちのミスマネージメントが加盟国のUNIDO離れを加速させていったことは間違いない。フランスは昨年、UNIDOの脱会を決定したが、同国がUNIDO脱会を決定した最大の理由はユムケラー前事務局長の腐敗問題だった。ただし、ポルトガルは李勇事務局長就任(昨年8月1日)後の初の脱退国となる。

中国人初のUNIDO事務局長に就任した李勇氏は昨年12月2日から6日、ペルーの首都リマでUNIDOの第15回年次総会を開催、「リマ宣言」を採択して国連専門機関として再出発するつもりだったが、ウィーンに戻るや加盟国の脱退通達が待っていたというわけだ。

ところで、李事務局長のテーブルには、スイスで開催中の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)での安倍晋三首相の基調演説内容を伝えた書簡があったという。

安倍首相が中国の軍事拡大政策を批判したという内容だ。UNIDO関係者からは「ひょっとしたら、日本はUNIDOへの分担金支払いを意図的に遅滞して中国人事務局長を困らせようとするのではないか」といった懸念が囁かれだしたのだ。

日本はUNIDO最大分担国(約19%、約1299万ユーロ)だ(その次はドイツ、中国と続く)。日本が脱退でもすれば、UNIDOの存続はほぼ難しくなる。そうなれば、UNIDOはニューヨークの国連開発計画(UNDP)に吸収される可能性が高まる。

元財務次官の李勇氏は中国人民銀行通貨政策委員会のメンバー、国際金融危機対策国家タスク・フォースの一員だった。そのエリートの李勇氏をウィーンに派遣したのは、中国がUNIDOをアフリカなど開発途上国への支援拠点に利用する一方、欧州連合(EU)の窓口にも利用できるという計算があったからだ。中国の狙いは米国がいないUNIDOの支配だ。その中国が日本の攻撃をじっと我慢することはないだろう。

これまで分担金だけを払い、おとなしくしてきた日本の外交が中国の反日攻勢に対して牙を剥き出して戦いに挑む場合、「UNIDOが日中間の外交戦の前線となる」というわけだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。