すでに武器を失っている中央銀行 --- 岡本 裕明

アゴラ

イエレンFRB議長が金融の量的緩和について当面、既定路線で行くという趣旨を発表しました。合わせてFRBの金融政策がもたらす新興国への影響は限定的であるとのコメントも付け加えました。

一方の日本。消費税引き上げを前に日銀は追加の金融緩和をするのではないか、と噂されていました。ところがここにきて各種指標から追加の施策を行う必要性がなさそうだという見方が支配的になってきています。例えば、日銀の木内登英審議委員は日経のインタビューで「経済や物価の多少の下振れ程度では、追加策による副作用が効果を上回る」述べています。黒田総裁は今のところ、「フレキシビリティを持たせる」という趣旨の発言に留まっていますが、裏返せばどうにでも取れるということです。つまり、市場の期待とは逆になることも大いにある、ということでしょうか?


イエレン議長も前任のバーナンキ議長も先々のことはその時に判断するという姿勢を見せている一方でフォワードガイダンスなるものも最近、注目されるに至っています。フォワードガイダンスとは中央銀行が金融政策の先行きを示すことであります。が、フィナンシャルタイムズではその効果はない、と強く否定しています。中央銀行のガイダンスでは「今日現在の経済指標をベースに考えれば金融政策のベクトルはこの方向だ」と言っている半面、「市場のことは市場に聞かねばわからない」とも言っているのです。私もこの点においてフィナンシャルタイムズの指摘に同調したいと思います。

となれば同紙が突っ込んだ「イエレン議長に武器はなし」という点が確かに浮かび上がります。ポール・ボルガー氏はひどいインフレ、アラン・グリーンスパン氏はブラックマンデー、バーナンキ氏はリーマン・ショックに金融崩壊と、ことごとく市場の熱い洗礼を受けてきました。しかし、歴代議長は対応すべき金融政策を持っていました。が、イエレン議長に関してはこの先、何か起きた時、どんな武器があるのだろうと考えると案外、伝統的な手法はないというのが専門家の一致した見方であります。以前、ヌリエル・ルービニ教授もそんなことを言っていた記憶があります。

武器がないのなら、議会は両党が一致して協力姿勢を見せるつもりなのか、アメリカ債務上限問題については今回は大きな話題にもならずあっさり両院は合意をしました。もっともこれもはじめからわかっていた話でした。

オバマ大統領も共和党のベイナー下院議長も早々に決着させると公言していたその理由は「これ以上揉めると中間選挙に響く」というお家事情によるものでした。実に自己中心的な発想であります。その点においてはイエレン議長は少なくとも中間選挙までは議会を味方につけることも可能だとも言えそうです。

但し、それは11月4日。それ以降、私が以前から懸念しているように共和党が両院とも過半数を抑え、オバマ政権がレイムダックになるようなことになればコトは非常にややっこしくなります。そしてイエレン議長は武器がない上に味方もなくすことにつながってくるのです。

リーマンショックからすでに5年半近くたつのですが、その間、金融政策が世の中を牛耳っていた感は否めません。その要となったのが各国の中央銀行であり、アメリカのFRBはまさにその頂点にあるといってもよいでしょう。それは中央銀行があたかも世界経済を引っ張っていくという印象すら持たせていますが、このブログでも時々提議していますように決して金融政策だけで経済はコントロールできるものではありません。が、市場は金融政策に一喜一憂する日々となり、政権を担う各国の政治的な政策とのバランスが悪化していることは疑念の余地はないように思えます。

中央銀行の影響力は本来であればサイドサポートであったはずでした。少なくとも我々が昔学んだ経済とはそんな感じだったと思い返せば、時代の反転は起こり得るのだろうか、とふと気になったりしませんか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年2月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。