ビットコインに管理者がいない理由-善意のネットワークは勝利を収めるのか?

大石 哲之

ビットコインは「管理している人がいない」という意味はどういうことでしょうか?

これは、かなり誤解されているとおもいます。管理者がいないというのは、やり放題、不正し放題というイメージを想起しますが、これは誤解です。

実は、ビットコイン自体には、管理データベースが存在しています。「ブロックチェーン」と呼ばれるもので、ビットコインの取引の全部の履歴を記録した元帳的なデータベースです。いつ、誰から誰にいくらのコインを送ったかということが、「すべて」記録されています。

すべて、ですよ。5年前にビットコインが生まれた時の最初の取引から、すべての取引がそのデータベースに収まっています。ブロックチェーンはビッグバンの時点までさかのぼれるのです。

重要なのはこの取引元帳データベースです。これを参照すれば、あらゆる不正がわかります。コインを二重に使用しようとしたりしても、過去のデータを参照すれば不正がバレます。

実をいうと、銀行やペイパルなどのシステムも不正防止のためには、厳重なセキュリティに管理された自社のデータベースをもっています。そしてそのデータベースのなかで、数字を書き換えて送金を実現したり、不正利用を監視しています。この場合、銀行がそのデータが正しいことを保証しているといえます。銀行が信頼できるかぎり、これは成り立ちます。

しかし、銀行がデータに手を加え勝手に数字を書き換えたり、勝手に送金したり、もしくは外部の攻撃にあって、数字が書き換えられてしまうかもしれません。

それは現在ないわけですが、それは銀行の社会的保証と、ものすごく金を掛けてつくっている極めつけに高いセキュリティでデータベースを守っているからです。

そして銀行なら安心ですが、あまりセキュリティの信用がないデータベースですと、JALのマイルのように、ハックされて盗まれたり改ざんされたりしてしまうのです。

さて、ビットコインの仕組みでは、なんと、そのデータベースを公開してしまっています。

え?そうなんです、そのデータベースを公開しています。

銀行でしたら、究極のセキュリティの奥底にしまっておくべきデータベースを、ネット上に公開しています。

それがビットコインです。そして、それを誰が管理しているかというと、銀行やペイパルといった特定の主体ではなく、ビットコインネットワークに参加するすべてのコンピュータによって共同管理されています(P2Pといわれる所以)。

公開されていて、P2Pで管理していて、管理者もいないのに、どうしてデータベースが正しく保持され、それが偽造されないということがありえるのか?そんなことありえないでしょ?

それを実現するアルゴリズムを考えだしたのが、ビットコインの凄いところです。

ビットコインの仕組みとは、

「P2Pで、唯一の正しいとみんなが合意できるたったひとつのデータベースを管理、維持する仕組み」と言い換える事もできるのです。

データベースの正しさは、特定の一人が「これが正しい」と判断するのではありません。ネットワーク参加者の多数決できめられます。誤解を恐れず言うと、半数以上の参加者が、これは正しい、と判断したものは、データベースに組み入れられ、保持されます。

ビットコインの参加者は全世界にたくさんおり、みんなで取引を監視しています。たとえたとえ誰かが不正をしても、それが全参加者の半数以上が不正を認めるといったことをしない限り、不正はネットワークに却下されます。

不正を認めてしまったら、ネットワーク参加者自体が被害を被るので、善意の参加者にとってそれを認める意味がないからです。中央のデータベース管理者がいるシステムでは、管理者自体が不正をしたり、クラックされると、問題がおこります。ビットコインにはそれはありません。

こういう参加者全体の善意によって、ビットコインの取引データベースが保持されています。

ビットコインには、たしかに中央でデータを管理している人は存在しません。

ただ、全員が正しいと認める、唯一の取引データベースは存在しています。

そして、そのデータベースを、参加者全員で分散的にメンテナンスしています。

そして、そのデータベースの正しさを保証するのは、参加者全員の善意による多数決の判断です。

こういうシステムが長期的にうまくいくのか?というのは議論がわかれていて、いろんな意見があります。私は、うまくいくのか?を現時点で議論することはあまり興味がありません。こういう面白いシステムを発展させ、うまくいくことができるために、知恵を出し合っていくことがイノベーションにつながります。

日本デジタルマネー協会フェロー/コンサルタント・入門書作家 大石哲之

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