いまだに、私が自分の躁鬱病について書いた前の記事について、お問い合わせやご連絡を頂きます。正直、驚きました。ゲーム業界の人だと知っている人が多いのですが、一般の方に向けて書いたからか、と思いました。
私は、医師でも、カウンセラーでもないので、お役に立てることは極めて限られるのですが、実際に病気で悩まれている方がいろいろネット上で調べて、その中の一つとして、私の文章にまでたどり着く方が多いように思われます。それだけ、当事者の方にとっては、切実な問題なのだろうと痛感します。
同じことは、私自身にも経験があります。様々な関連書籍を読んでも、なかなか自分にフィットする類例を見つけられませんでした。そのため、どれだけ、お役に立てるのかは怪しいのですが、個人的なケースが何かのヒントになるのではないかと、追加で補足記事を書いておきます。前記事と重複する部分があるのはお許しください。
■患者にも見える状態で入力される電子カルテは役に立つ
私自身は、今は精神的な比較的落ち着いているように思えるのですが、少なくとも、今の先生とお会いして安定した関係を5年近く保てているように思います。(ただし、家族によると、そうでもないと言われます……まあ、そうかもしれません)
この医師と出会って、最もよかったと思えるが、「患者にも見える電子カルテ」を用いている点です。他の病院の状況がわからないので、浸透しているのかは私には判断が付かないのですが、通院するようになってから、様々な病院を巡ったが、この方式をとっているのは出会った先生は、初めてでした。
診察室には2台のモニターがあり、その1台が患者である私の方に向けられています。そのため、先生が入力している内容が、すべて私にも見えます。成熟した老魔法使いのような印象の先生なのですが、ブラインドタッチを身につけられていないため、キーボード入力はおぼつかない感じです。そのため、漢字変換をいつも間違える姿に、ついつい内心では、代わりに入力しましょうか? なんて言いたくなるのですが、一応口に出したことはありません。
当初は、その方式に驚きました。大学病院を引退後に開かれた個人医院なので、その大学では、すでに一般的な方法なのかなと思ってはいます。この方式は、患者にとっての私にとっても、非常に役に立っています。過去の自分の状態がどうだったのかを、私自身の意見を取り入れつつ、先生と検討できるためです。ぱっと古い情報を見るだけで、当時の頃に、自分がどういう状態だったのかを思い出すことが出来ます。病院に行ったときには、こうした電子カルテを用意している病院や医院を積極的に勧めたいと思います。また、様々な病院で採用されることを望みたいとも思います。
■心理状態の主観的な変化は記憶に残りにくい
これは他の人にも、当てはまるのかどうかわからないのですが、私の場合は、躁状態のときには、鬱状態に落ちている自分を思い出すことができなくなります。そのときには、病気が治ったと思い込んで、薬を飲むのを勝手にやめたりしていました。それで何度も痛い目にあいました。当然、薬の効果が失い始める2週間程度が経過すると、後は真っ逆さまに、調子は落ちるしかないためです。
逆に、鬱期には、その状態も、時間がかかってもいずれ回復するということが、想像できなくなってしまいます。絶望的な気分になり、追い詰められるような感覚が起こり、自分が二度と回復することが起きないような気持ちがしてきます。
やっかいなことに、これらのことは主観的な経験として記憶に残りにくいようで、何回繰り返しても、記憶に定着しませんでした。家族から指摘を受けても、なかなか、その最中には、納得しませんでした。結局、外部から自分を観察できる前述のカルテのような記録がなければ、難しかったように思います。
私の場合、なだらかになっているとはいえ、現在でも、躁状態時には、新しい文章のアイデアがよどみなくあふれてきます。1日で大量の文章を、様々なテーマで勢いを持って書けます。翌日肩こりで、がたがたになるほど、キーボードを叩き続けます。もちろん、精神的には気持ちいいのですが、やがて昼夜逆転が起こり、そのうち、躁期は終わります。そして、躁期に、勢いで仕事を受けすぎて、鬱期に転落後、しんどい思いをします。そのため、長文を大量に書き始めたら、怪しいと思うようにもなっています。
また、人により症状が違うと思うのですが、私の場合は「ラピッドサイクラー」と呼ばれるタイプに分類されるようです。これは、年に4回以上の躁鬱を繰り返すときのパターンです。この傾向も、共有しているカルテのパターンから把握できるようになりました。
■「睡眠・覚醒リズム表」を再現したアプリ
ところで、精神科を受診した人であれば、「睡眠・覚醒リズム表」をつけることを必ずと言っていいほど、勧められると思います。これも自分を客観的に観察するためには、有効な手段だとわかります。しかし、私の場合は、結局は続きませんでした。スマホなどを利用することが、当たり前の時代に、手書きで作成するのが、とても煩わしいためでした。できたら、デジタルで入力したい。また、その結果をPCに出力したい。
ところが、そのニーズを満たしてくれるスマホ向けのベストアプリが、ありそうで、現状ない状態です。それでも、ベターなものとして、今はiPhone向けの「睡眠手帳」(200円)というアプリを使っています。それで睡眠のパターンを客観的に把握するようにしています。ただ、バグが多く、インターフェイスにも問題があり、また、外部にデータを出力できないなど、問題は多いです。(もう少し高くてもいいのでアップデートして欲しい)
ただ、利用し始めて5ヶ月が経ちますが、それでも、睡眠時間の傾向は今まで以上に把握できるようになっており、有効性は明らかです。いつ多眠するのかなどがちょっとわかるようになってきました。同じようなアプリを探している方は使ってみてほしいと思います。
切実な問題として、病院から勧められるものに準拠したアプリを作って頂けないでしょうか? 今ならディファクトを狙えますよ。
■患者の側からの情報がもっと必要であると実感
また、精神病を抱えているかたの専門紙「こころの元気+」という雑誌の購読も勧めたいと思います。 だいたいの病院に置かれているので、どんな雑誌なのかは容易に把握することが出来ると思います。NPO法人地域精神保健福祉機構「コンボ」が出版している月刊誌(月416円送料込み)です。今月(2月号)は精神病を抱えている人の「恋愛」が特集されています。漫画等も入っており、読みやすく、恋愛をしたいという切実な文章が書かれています。非常に考えさせられました。病気を抱えていようがなんであろうが、みんな恋愛をしたいんだなあと。当然だよなあ、と。それほど、複雑な情報が乗っているのではないのですが、読むと同じような人はそれなりにいるのだなあと感じられて、ほっとします。
前回の記事を書いて、切実に思ったのは、情報が圧倒的に足りていないのだなと感じました。もちろん、研究自体が現在も進行中で、一般化できない部分も多いのだろうと思っています。今、数多くの鬱病といった精神疾患をテーマにした漫画本は多数あり、ブームのようになっていますが、なかなか、ヒントにはなるけど、自分とそっくりの人っていないなあと、思ったりもします。
私自身のこの記事も同様です。ヒントとして利用してください。なんとか、自分を客観的に観察する方法を確立しましょう。すぐに結果が出なくても、数ヶ月と記録が蓄積されていくと、見えてくる物があります。
と、人に勧めつつも、自分ができるようになったのは、通っている医院のお陰で、自分自身では、割と最近のことであると告白して閉めます。
こうした情報が、少しでもお役に立てば幸いです。
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私が躁鬱病と戦い続けた10数年
新 清士
ジャーナリスト(ゲーム・IT)
立命館大学映像学部非常勤講師
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